一ノ瀬くんに自分で選ばせる
一ノ瀬くんのヘルプサインを受け取ったものの、私は自分の考えを言わないことにした。恋愛ゲームでは、好感度をMAXにしてから告白するのも正攻法の一つだし、一ノ瀬くんがどちらを選んでも間違いとは言えない。
私が沈黙を保つのを見て、一ノ瀬くんは最終的に「告白しない」を選んだ。
花火が夜空に咲き、火花が人々の笑顔を照らした。
「一ノ瀬空」は花火より目の前の女の子を無言で見つめていたが、結局何も言わずに視線を空に戻した。
[“粒子ちゃん”]一ノ瀬くん……■■■■……
「ドッカーン」と、その日最も大きい花火が、最も悪いタイミングで炸裂した。
[“一ノ瀬空”]え?なに?
[“粒子ちゃん”]一ノ瀬くんの……バカ!
[???]どうしたんだい?女子を泣かせるなんて、紳士の風上にもおけないな。
紳士というかキザというか、青年がスマートな所作で「粒子ちゃん」にティッシュを渡し、責めるような目つきで「一ノ瀬空」に尋ねた。
[“一ノ瀬空”]……僕も、わからない……粒子ちゃんが突然泣き出して……。
[???]今は、何も言わないのが賢明さ。
[“一ノ瀬空”]……?
泣き止んだ「粒子ちゃん」は逃げるように夜に紛れて消えてしまい、「一ノ瀬空」は何もわからないままその場に残された。
そして赤文字のメッセージが出現し、「好感度が下がった」と書かれている。
[player]いや誰だよ、そのいきなり出てきた奴。
[一ノ瀬空]彼は主人公とルームシェアをしているもう一人の生徒、通称「間男」くんだよ。
[player]待て待て、そういう要素もあるのかよこのゲーム!
[一ノ瀬空]これも、隠しイベントの一つか……。今「粒子ちゃん」は「間男くん」への好感度が高いっぽいし、嫌な予感がする。
場面が一転して、卒業の季節になった。アカデミックガウンを着た学生たちがあちこちにいて、キャンパスでの青春の1ページを残そうと記念撮影をしている。
そんな中「一ノ瀬空」は告白の手紙を持って、そわそわとあの子が来るのを待っていた。
[“粒子ちゃん”]ごめんごめん、遅れちゃった。
[“一ノ瀬空”]いいよ、僕も今来たとこだし。
[“粒子ちゃん”]一ノ瀬くん……用事ってなに?
[“一ノ瀬空”]僕……粒子ちゃんに、これを受け取ってほしいんだ。
「一ノ瀬空」が綺麗な封筒に入った手紙を渡し出すと、「粒子ちゃん」はちょっと戸惑った表情を見せた。そして、すべてを察した。
[“粒子ちゃん”]気持ちは嬉しいよ、でもあたし、もう好きな人がいるから。
音楽が流れ出し、画面がモノクロへと変わる。「粒子ちゃん」の後ろ姿は振り返ることなく段々と小さくなっていき、最後には画面から消えた。
「Game Over」の文字が表示されて、私たちの数時間の努力が否定されてしまった。
[player]嫌な予感、当たっちゃったね。あれからヒロインが本当にそのまま「間男くん」の方に行くなんて、誰が予想できるってんだ。
[player]すべてのステータスをカンストまで上げても、結局「粒子ちゃん」は振り向いてくれなかったな。一体どこで間違ったんだろ。
[一ノ瀬空]コホコホ……バッドエンドのサンプルが、もう一つ増えたね。
私より一ノ瀬くんの方がよっぽど早くゲームオーバーを受け入れたらしい。でもいつもより低い目線は、彼も内心落ち込んでいることを私に教える。
何十回もゲームオーバーしてるし、さすがの一ノ瀬くんも気落ちするよな。彼にとっては、このゲームこそが今までで最大の難問かも。
一ノ瀬くんを慰めるべく、私は彼の肩を叩いた。
[player]クリアにだいぶ近づいたっぽいし、もう一度頑張ろう。今度こそ攻略するぞ!
[一ノ瀬空]うん。
と、一ノ瀬くんは「はじめから」を選んだ。そしてもう一度、私達はあの裏路地に戻された。さっきの経験があれば、今度こそクリア出来るっしょ!
[一ノ瀬空]むう……「粒子ちゃん」は怒ってないって言ってるのに、なんで好感度が下がるんだろう……。
[一ノ瀬空]あれ?水曜日にデートって、昨日水曜日は用事があるって言ってたのは「粒子ちゃん」の方じゃないか。
[一ノ瀬空]何でもいいよって言ってた割に、何を注文しても好感度がただ下がり……なんで?何か隠し要素を見落としてる?
[player]……。
……と、思いきや、一ノ瀬くんには分からないことがまだまだ沢山ありそうだ。数字で表せないものだし、「愛」はこの子にとってやっぱり複雑過ぎるのかな……。
クリアできるまで、一ノ瀬くんの「お勉強」はこれからも続きそうだ。
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