[player]ネットでバズった商店街があるじゃん? そこに行くつもりだったんだけど……。
[明智英樹]ネットで……ああ、あそこですね。わかりました。
迷った時に助けてくれる人がいることを幸運と言うのなら、その人が英樹だったことはもはや豪運と言えるだろう。
彼になら何でも任せられるし、何なら私が何もしなくても彼がすべてを考慮したプランを考えてくれる。彼の後をついて歩くこと数分、誰もいなかった裏道から人で溢れた商店街に到着した。
CMの中では、古き良きのどかな町というイメージが強かったけど、目の前の街道はむしろ賑やかな雰囲気だ。
商店街と言っても、一飜市のそれとはまた別の趣がある。古めかしい民家のような店舗が道に沿ってズラッと並び、たくさんの観光客が出入りしている。
[player]へー。お話に出てくるような風景だけど、色とりどりの現代的な看板を合わせても意外と違和感無いね。これを見られただけでも来た甲斐があったかも。
[明智英樹]もう満足しちゃったんですか? PLAYERさんって意外と欲がないんですね。
[player]その方が生きてて楽しいでしょ?
[明智英樹]確かにそうです。だから、僕も君と一緒にいるときはリラックスできます。
[観光客たち]いいぞー!
英樹との会話は向こうで起きた喝采に中断させられた。見てみると、路上パフォーマンスが行われているようだが、高い人垣ができていて何のパフォーマンスなのかはわからない。子供が親に抱き上げてもらっているのを見て、私も何とかつま先立ちになって様子を見ようとした。
どんなに頑張ってもパフォーマンスが見えない私の腕を英樹が引っ張り、私を道路脇の縁石に立たせてくれた。周りが完全に人に包囲されているにも関わらず、英樹は場所を確保してくれたようだ。
[明智英樹]ここからなら君でも見えるんじゃないですか?
一段高い場所に立つと、視界が格段によくなった。人混みの中心に、白い紗幕が見えた。
[明智英樹]なるほど、影絵芝居ですね。だからこんなに人が多かったのか。
[player]影絵?
[明智英樹]はい、人形や手の影を幕に投影し、それでお芝居するんです。この影絵劇団は有名ですよ。
[player]面白そう。なんでお隣の一飜市で今まで見たことなかったんだろ。っていうかこのお芝居って歌って演じるんだね。
幕の中央に恰幅のいい金持ちらしきキャラクターが投影され、独特な歌声が私の注意を引き戻した。
[影絵の演者]封建主義の時代、今から千年も昔のこと……とある貴族のご令嬢は、学問を究めたいあまりに、なんと家を出ようとしていたのです……!
[影絵の演者]大切に育てて来た愛娘を、何百里も離れた街へ行かせるなんて。しかし引き止めることもできません、可愛い娘の心を病ませたくはないからです。
ご令嬢は家出して、遠く離れた町の学院で庶民の男と愛し合った。しかし二人が想いを伝える日に、彼女は父親からの手紙を受け取った。手紙には、知り合いの貴族の跡取りとの婚約について書かれていた。ご令嬢はそれでも自分の愛を諦めず、男と共に家に戻り、学問の成果を披露し父親の許しを得た。そして愛し合う二人の結婚式の日には、千羽以上の蝶々たちがお祝いに来たという話だった。
演者の人形や手の動きが生き生きとその物語を演じ、優美な歌声とともに観る者を物語の世界に没入させた。演者が明かりを消し、幕の裏から前に出てくると、拍手と歓声が送られた。
素晴らしいお芝居に、私も思わず惜しみない拍手を贈った。
[明智英樹]演者さん、今日はにこやかでしたね。
[player]そりゃそうよ。あの箱見た? あっという間にコインでいっぱいになってたよ。
[明智英樹]ふふ、違いますよ。ここが観光地化して間もない頃から、彼はここでお芝居をやっているんです。僕も観たことがありますが、その時も今日と同じ演目でした。
[明智英樹]ただ、あの時は、今日と違って悲惨な結末でした。貴族の父親は、婚約を押し通すために、彼氏を死まで追い込む。そして、ご令嬢は愛する人と結ばれない苦しみを抱えて、跡取りとの結婚式当日に彼氏の墓の前で自殺し、二人は蝶々となって飛び立った……という筋書きでした。
[player]元々は悲劇だったんだね。でも私は、こういうハッピーエンドの方が好きかな。
[明智英樹]そうですね。それにしても始めはヒヤヒヤしましたよ、また君に悲劇を見せることになってしまう、と思って。
英樹は俯いてそう言った。前のことをまだ引きずってるんだな。珍しく私のほうが高い位置にいるせいか、思わず彼の頭を撫でてしまった。
[player]弱気な部長、かわいい~。
[明智英樹]はい?
やばい、心の声が漏れた。
[player]ううん、忘れて! それよりほら、今日は楽しい芝居が観られたんだし、きっといいことが起こるに違いないよ。そうでしょ!?
[明智英樹]そ、そうですね。うん、きっといいことがあります。
英樹は笑いながら手を差し出し、私を縁石から下ろした。英樹も何だか嬉しそう。
[明智英樹]さて、次は何をしましょうか。
[player]私が決めていいの?
[明智英樹]はい。君といるといいことが起きますし、君に決めて欲しいです。
Character:
categoryStory:
ending:
choices: