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ヒーリさんを連れてこの場を去り、後は警察に任せる

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[player]それはダメです、一人でここに残るのは危険すぎます。
今にも警備員が突入してきそうな入口を見ながら、私は心を鬼にしてヒーリさんの意思を無視し、力いっぱい彼女を引っ張って外へと逃げた。
オウムは私達の傍にぴったりと付いて、足早に逃げながらヒーリさんを説得した。
[オウム]君の気持ちは察するに余りある。けど、今俺たちが連れ出したところで、安全に逃がせるかわからない。
[ヒーリ]でも……
[オウム]命あっての物種だ。
[player]あはは、オウムって、ずいぶん古風な慰め文句を言うんだなあ。
[オウム]……そんなこと言う余裕があったんだ、あまり怖がってないみたいだね。
[player]空元気ってやつだよ……
[ヒーリ]……わかった。
鳥達の部屋を出る頃には、ヒーリさんは冷静さを取り戻していた。警備員たちは倉庫の扉のすぐ外まで来ているようだ。今出て行けば、彼らと鉢合わせしてしまうだろう。
[ヒーリ]隠れよう。
理由を問う暇もなく、彼女に手を引かれて別の部屋に入った。扉が閉まった直後に、倉庫の扉が力強く開けられる音が聞こえた。私は恐怖で息もできず、ただじっと外の物音に耳を傾けた。
[警備員C]四番倉庫が開いてる。クライアントの荷物が減ってないか確かめろ!
[警備C]お前とお前は五番倉庫に行け。怪しい奴を見つけたら問答無用で確保しろ。
ヒーリさんはわずかに扉を開け、隙間から外の様子を窺った。警備員が続々と鳥のいる倉庫に入ってくる。
[ヒーリ]今だ!
来た道を引き返すと、扉ロックは全て開いたままだったので、一番外側の部屋までスムーズに辿り着くことができた。出入口を守っていた若い警備員とばったり行きあったが、その警備員は、朝怪談のせいで一睡も出来なかったと話していた「ポチ」だった。
私達を見ると、彼は咄嗟に無線で連絡を取ろうとした。その時、彼の頭に棍棒が容赦なく振り下ろされた。
ドゴッ!
若き警備員はゆっくりと倒れた。その後ろには、シジュウカラが立っていた。
[シジュウカラ]こっちじゃ、ついて来い。
私達はシジュウカラに導かれ、路肩に停めてあったバンに乗り込んだ。
[player]シジュウ、あんまりいじめちゃダメだよ。ポチの奴、君のせいで踏んだり蹴ったりじゃないか。
[シジュウカラ]わかっとらんのう。こういう時ゃあ弱いものいじめに限るぜ。
[シジュウカラ]金持ちだってカモからなんべんも搾取するじゃろ、それと同じじゃ。
バンが曲がり角に差し掛かった時、パトカーとすれ違った。
[シジュウカラ]ほれ、サツが来よった。安心せぇ、後はあいつらに任しときゃええ。
ヒーリさんは黙って目を閉じてシートに身を預けていた。倉庫の動物たちが心配なのだろう。
シジュウカラは私達を「Soul」まで送り届け、そのまま去って行った。私は、サラとライアンにここ数日のことを報告した。危険なことを意図的に省きつつではあるが。
その日の夜、私は「Soul」で夕食を食べた。満腹になった頃、不意にライアン君がキャンプファイヤーの方へと歩いていった。
[おじいさん]ライアンよ、マジックショーでも披露してくれるのかの?
[みんな]いいぞー! やってくれ!
[ライアン]マジックではないのですが、みなさんにお見せしたい演目があります。僕達年少団員で準備したんですよ。
[ライアン]楽しむ準備はいいですか?
ライアンは黒いマントをまとい、「ヒヒヒ……」と悪そうな笑い声をあげていて、いかにも悪人然としている。
背中に羽をつけ、赤い帽子をかぶった子供が人々の中から姿を現し、自由に生を謳歌している「タンチョウヅルの子ども」のようにライアンの前を走り回った。
ライアンはこっそり背後から忍び寄り、不意をついて力づくで「タンチョウヅルの子ども」を捕まえ、用意されていた鳥かごの中に押し込めた。若いタンチョウヅルが鳥かごの隅に縮こまり、助けを求め続ける中、ライアンは満足そうに大笑いした。
すると、鞭を持った女の子が突如として飛び出し、ライアンと戦い始めた。決着がつかずにいると、傍からもう一人子供が現れた。彼が頭につけているお面、もしかして、私の顔?
「私」が参加したことによりライアンは敗北を喫し、二人の勇者は手を取り合ってタンチョウヅルを助け出し、観客から拍手喝采を浴びた。
この物語は私とヒーリさんを描いたものだとすぐわかった。拍手と歓声が飛び交う中、ライアンは人差し指を口に当てて、私とヒーリさんのいる方を指さした。
[ライアン]実は、僕達が今のショーをやろうと思ったのは、ヒーリ姉さまと、世界で最も勇敢でお優しいPLAYERお姉さまがいたからなんです。
[ライアン]このお話は、お二人が若いタンチョウヅルを勇敢にも助けた実話を基に創ったんです。何でも、「幾度春」のあの四貴人様にもお力を貸していただいたとか。あの方を拝めるって知ってたら、僕もついていったのに。
ライアンは明言こそしなかったが、団員達は彼の言いたいこと——ヒーリさんが「幾度春」に出入りしてたのは、タンチョウヅルを助けるためだということ——を理解した。
ヒーリさんを誤解していたことに気付いた団員達のうち、さっぱりした性格の団員数人がヒーリさんのもとへ行き、彼女と話し始めた。
[???]お若いの、やっぱりわしの目に狂いはなかったのう。
[player]え?
もぎりのおじいさんだ。最近は十分に休めているのか、元気そうに見える。笑いながら私に話しかけ、隣にゆっくりと腰を下ろした。
[おじいさん]はぁ、すっかり老いちまって、地べたに座るのも一苦労だよ全く。
[player]椅子を探しましょうか?
[おじいさん]あぁ、結構。わしら老いぼれを代表して、お前さんに話をしに来たんだ。
[player]え?
[おじいさん]さっきのライアンのショーを見てサラちゃんに聞いたら、ヒーリはお前さんと一緒に野生動物を助けに行ってたそうじゃないか。
[おじいさん]この前、ヒーリさんを悪く言う団員がいた時にな、わしは「ヒーリはそんな子じゃない」と言ってやったんだ。どうだ、わしの目に狂いは無かろう?
[player]ええ、仰る通りです!
おじいさんはみんなと話しているヒーリさんを見つめ、私の肩を叩いた。
[おじいさん]とにかく、ありがとう。ヒーリは頑固な性格なのもあって、このところ苦労しててな。今ああして皆と笑って話せてるのは、お前さんのおかげだよ。
[おじいさん]お前さんはわしら「Soul」の小さな炎だ。一見大したことなさそうに見えても、「Soul」の炎が赤々と燃え続けていられるのは、お前さんのおかげだよ。
[player]おじいさん……恐縮です。
[おじいさん]はは、わしに遠慮は要らぬよ。ああ、ヒーリ、いつの間に。それじゃ、邪魔者は退散するよ。
おじいさんは手を振って、自力で立ち上がるとその場を離れた。振り向くと、ヒーリさんが私の傍に座っていた。
[ヒーリ]今回はありがとう。
[player]いえいえ。私、何もしてないし。
[ヒーリ]ううん、色々してくれたよ……それに、さっきみんなが私を誤解してたって謝りに来てくれた。
[ヒーリ]本当に、今回のことは誰も悪くないんだよ。皆が私に謝る必要もないし。あの時は私個人のことだから、みんなを巻き込む必要なんてないと思ってた。だから言わなかったんだけど、まさかこんなに大きな誤解を招くとは。
[ヒーリ]あんた達にも心配かけちゃった。あんたが手を貸してくれなかったら、私の手に負えない規模まで事が大きくなってたかも。だからとにかく、あんたにはちゃんとお礼を言わなきゃと思って。
彼女から飲み物を受け取り、乾杯した。口当たりが爽やかで、グリーン系のさっぱりとした香りがする。何か変わったフレーバーのようだ。
突然、私のスマホが振動した。見ると、先日連絡先を貰った警官からだ。ヒーリさんの視線を受けつつ、私は電話に出た。
[警官]PLAYERさんの携帯ですか?
[player]はい、そうです。
[警官]あぁ、ちょっと連絡したいことがあっただけだから、緊張しないで。通報してくれた野生動物の密売商のアジトは制圧しました。まだ数人が逃走中だけど、奴らの居場所は特定出来てるから、もうすぐ逮捕できるはずです。
[警官]あの倉庫は、余罪の証拠が残されているかもしれないので封鎖してあります。中の動物達は全て野生動物の支援機構に引き渡しました。チベットスナギツネ数匹はひどい病気だったみたいで、我々が現着した頃には手遅れでしたが……あぁ、あなた達が言ってた若いタンチョウヅル二羽は無事でしたよ、ご安心ください。
[警官]そうそう、「三青斎」で保護されていたツルも、我々が保護した動物たちと一緒に支援機構に預けました。
警官のハキハキした声は夜の空気の中でもよく通り、私に身を寄せてきていたヒーリさんにもちゃんと聞こえたようだ。
[ヒーリ]PLAYER、仔チーターのことも聞いて。
[player]刑事さん、あの動物達の中に子どものチーターがいたんですが、その子は無事ですか?
[警官]チーター? たくさんいたからな……待っててください。支援機構の医師に聞いてみます。
[警官]……もしもし?
[player]はい。
[警官]今、医師と一緒に見に行ったんですが、医師によれば、少し栄養失調気味だけども、処置が間に合ったので問題ないとのことです。他に確認したいことが無ければ、今日はこれで。後日、一飜市の治安維持貢献を称して感謝状をお贈りしますので。
[player]え? 感謝状? ……なら、それは「Soul」に贈ってくれませんか?
[警官]「Soul」って、あのサーカス団ですか?
[player]はい、今回のことは私一人の功績じゃなくて、「Soul」の人達の助けあってこそでしたから。
[警官]ははっ、なるほど。わかりました。
電話を切ると、ヒーリさんは優しい笑みを浮かべながら、傍に寄ってきたモヒートを抱きしめていた。彼女は私の首元に手を伸ばし、少し力を込めて抱きしめ、二人と一匹で顔をを寄せ合った。
ヒーリさんのカラッとした笑い声を聞いて、心から喜んでいるのだとわかった。自分への誤解が解けた時よりも嬉しそうにしている。