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こんな傲慢な態度で、いつか手痛い返り討ちに遭わないといいけど。

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[player]こんな不遜な態度で、いつか報復に遭わないといいけど。
一飜市はいたって平和な所だが、一飜市だからこそ、麻雀の怨みを甘く見てはいけないのだ。
[九条璃雨]報復しようとでも思っているのですか?
[player]九条さん、いつの間に!?
いつの間にか横に立っていた少女は、千織の専属メイドの九条璃雨さん。主従関係ではあるが、実態としては姉妹のようなものだ。
九条さんは腕も立つ。お嬢様を不当に扱ったり、何か害を加えようとする者は誰であろうと滅殺する。私も、千織に冗談を言ったときに何度かその鉄拳を喰らったことがある。
……ちょっと待て。今自分の口から言葉がポロッと……嫌な予感がする。
[player]九条さん、さっき言ったことなんですけど、まだ弁解のチャンスはありますでしょうか?
[九条璃雨]さあ、どうでしょうね……?
九条璃雨は薄笑いを浮かべながら、私の肩をガシッと掴んだ。
[九条璃雨]しかし、今はそれより重要なお話があるのです。
「ううう、今に見てろ。いつか誰かがお前をボコボコにする日が来るんだからなー!」
九条さんが「相談したいことがある」と言った時、またしても付近の卓からあがった悲壮な叫びが神社一帯に響き渡り、聞く者を恐怖に陥れた。
また一人、卓についていた雀士が千織に完膚なきまでに負かされ、号泣しながら逃げて行った。全ての元凶である傲慢な大魔王の高笑いが響く中、険しい表情の九条さんを見つめた。
[player]ほら、感情が高ぶると思わず過激なことを口走ってしまうものなんですよ。信じて、さっき言ったことはほんの冗談なんだって。報復なんて絶対しませんから!
[九条璃雨]しっ、もう少しお静かに。わたくしのようなか弱い少女が、あなたに何かするとでも?
[player]もしかして、「か弱い」って単語の定義変えました?
[九条璃雨]ああ、急に強い風が。……何か言いましたか?
[player]いや、何も。
[九条璃雨]なら良いです。では、本題に入りましょうか。わたくしの悩みを聞いてもらえますか?
[player]えっ? 私でよければ聞きますけど。
完全無欠の九条さんが「悩み」なんて言葉を口にするとは珍しい。これはきっとかなりの難題だろう。
[九条璃雨]……不審者です。それもかなり危険な。
[player]え、不審者!? そんなのがいるの?
[九条璃雨]何ですか? 千織様のように輝いているお方なら、不審者に目をつけられてもおかしくありません!
[player]そうじゃなくて……落ち着いてください、あなたなら守れるでしょう?
[九条璃雨]そうです、千織様の視界に入るゴミ共を一掃するのがメイドとしての存在意義なのですから、当然でしょう。
長年のテコンドー修行で培った構えを崩さない九条さんを見れば、あの不審者たちがどのように片付けられたのか、容易に想像がついた。
[player]わかってますよ。それにしても、その口ぶり……今回はいつもと違うみたいですね。
[九条璃雨]そうなんです。ちょうど一週間前の夜のことでした。夕食の準備を終えて、千織様をお呼びしようとしたところ、不可解なことがあったのです。
九条さんは、その日あったことを語り始めた。
[九条璃雨]千織様、お食事の支度が整いました……千織様?
驚いたことに、千織の部屋には誰もいなかった。
他の場所を探しに行こうとすると、突如ベランダから「キイ……」という音が聞こえてきた。よく確認すると、ベランダに続くガラス戸が開いていて、夏の暑い空気が室内まで入ってきていた。
今の音は、ブランコが揺れた音らしい。
[九条璃雨]こんな暑い日に、どうしてベランダなんかへ……? 千織様? あら?
主人の居場所を掴んだと思っていたのだが、ベランダまで出て驚いた。そこに千織の姿はなく、ブランコが揺れているだけだったからだ。空気はよく乾燥していて、風も全くなかった。椅子に触れると、温もりがまだ残っていた。
ブランコのそばにはクマのぬいぐるみが落ちていて、それを拾い上げた九条さんは顔をしかめた。
[三上千織]やったわ! 大勝利よ! 千織がホームで負けるなんてありえないわ! 璃雨ー!
そのとき、千織の声が部屋の外から聞こえ、彼女は隣の小さな書斎にいたのだとわかった。
ハッと我に返った九条さんは、急いでぬいぐるみをブランコに置き直すと、千織の呼びかけに応じるべく部屋を飛び出した。
[九条璃雨]はい、ここに。
[三上千織]今半荘が終わったとこなの、お腹が空いたわ。今なら一姫より食べられそう。
[九条璃雨]フフ、かしこまりました。今夜はビーフピザにエビチリ、デザートはマンゴーミルフィーユでございます。足りなければ、パスタもご用意します。
[三上千織]あら、それってもしかして、この前お店で食べたおいしいエビチリ? レシピを覚えたの?
[九条璃雨]思い出の味の通りになれば良いのですが。
[三上千織]自信もちなさいよ。璃雨の料理の方がおいしいんだから!
[九条璃雨]千織様がそうおっしゃるなら、店以上の味になっているはずですね!
[九条璃雨]……大変光栄なことに、あの日のエビチリは千織様が全てペロリと召し上がられました。
[player]ゴクッ。おいしかっただろうな……って、今は不審者の話ですよね。
[九条璃雨]そうでした。とにかく不審者の存在を知ったのは、その時が初めてでした。それからというもの、千織様と出かけるたび、物陰から何者かに見られているかのような感覚が何度かありました。しかし相手は勘が鋭く、いつも追いつく前に逃げられてしまうのです。
[player]それは手強そうですね。
[九条璃雨]最新のメイド養成合宿に参加し、アンチ尾行スキルを磨きましたが、それでも完璧に千織様の安全を保証するレベルには達していなくて。
[player]九条さんはよくやってると思いますよ、いつも千織をしっかり守ってるじゃないですか。……状況はわかりました、それで、私は何をすれば?
[九条璃雨]わたくしと一緒に千織様の警護にあたっていただきたいのです。他者の助力があれば、不審者をよりスムーズに捕まえられるかもしれませんから!
[player]それは構いませんけど、何故私に頼もうと思ったんですか?
[九条璃雨]わたくしが決めたというより、千織様のお気持ちがあなたを選んだ……と言った方が適切でしょう。
[player]どういう意味ですか……?
[九条璃雨]千織様は人を簡単に信用しません。しかし、あなたのことは嫌っているように見えても、有事の際は知らず知らずのうちにあなたを頼っているように感じます。
[九条璃雨]恐らく千織様ご自身も、いつからそうなったかはわからないと思いますが。
[九条璃雨]ですから、他の誰かよりあなたをお傍にお付けした方が、千織様は受け入れてくださるのではと判断しました。
[九条璃雨]とはいえ、ご心配なく。千織様に部外者への依存心を芽生えさせてしまったのは、メイドたるわたくしの落ち度です。必ずこの過ちを正し、千織様をあなたから取り戻してみせます!
最後の一言に、思わず背筋が寒くなった。
[player]アハハ……そこまで深刻に考えなくても、いや冗談抜きで。
[player]それはともかく、ストーカーなのか、もっと別の目的があるのか知らないけど、一刻も早く見つけ出した方がいいですよね。
[九条璃雨]しーっ、お静かに。千織様はまだこのことをご存知ないのですから。
[player]そうなんですか?
[九条璃雨]もし千織様のお耳に入ろうものなら、あまりの恐怖にお食事も喉をお通りにならなくなったり、眠れなくなってしまうに違いありません。それに、わたくしの知る千織様は何としてもご自身で不審者を捕まえようとなさるお方。もしそんなことになればあまりに危険すぎます。
[九条璃雨]という訳なので、あなたが私達に同行する理由を考えておかねばなりませんね。
[player]そうですね……一緒に遊ぶというのは?
[三上千織]一緒に遊ぶ? なんで千織が平民のPLAYERと遊ばなくちゃいけないのよ?
[三上千織]ふん! 嫌よ、ぜーったい嫌!
[player]……
わかり切っていた。千織の性格なら、こうなるのは当然だ。横で見ていた九条さんが、今にも崩壊しそうなボディーガード計画に助け舟を出した。
[九条璃雨]千織様は以前、いつかPLAYERと一緒に遊びたいと仰ってましたよね?
[三上千織]はぁ!? バカ璃雨! ち、千織がそんなこと言うわけないじゃない!
[九条璃雨]そうでした、私の記憶違いでした。千織様がPLAYERさんと遊びたがるなんてあり得ませんよね。
私は九条さんに疑惑の眼差しを向けていた。私達は共闘関係だったはずでは……!?
[player]やれやれ。千織を守るためには、私が一肌脱ぐしかないみたいだな。
[player]千織は何で私と遊びたくないの?
[三上千織]嫌なものは嫌なのよ。理由なんてないわ!
[三上千織]というか、PLAYERって、そんなにこの千織と一緒に遊びたいの? まさか、遊ぶ友達がいないとかぁ~?
[player]違うよ。友達の誘いを断ってでも、千織に会いに来たかったんだよ!
[三上千織]……ふん、千織のことを簡単に騙せるとでも思ってるのかしら? 友達がいない訳じゃないのなら、何か別の目的があるんでしょ、正直に言いなさいよ!
どうやら千織に信じてもらうには、もっと周到な口実を考えなければならないらしいな。……そうだ、こうしよう。