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遠回しな評価を言う

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確かにすごくフレンドリーで、白石さんみたいに誰にでも馴れ馴れしく接することが出来る人みたいだね。
それ悪口じゃない? まぁいいや、褒め言葉として受け取っとくよ。
でもおだてても無駄だよ、この牌はウチがもらいまーす! ロン! 平和のみ~。
こうして私の親番がノミ手に流されてしまった。でも、この白石さんの手、私の三萬を見逃して、四五六の三色を狙うことも出来たはずなんだよな。まだ四巡目だったし。
安目であがってもらって、安全に次局に進むのもアリだよね。さすが奈々先輩は優しいなあ、ありがとう。
ふふん、わかればいいのだよ。
半荘が終わり、私と白石さんが席を立つと、申し訳なさそうな顔をした会館のおかみさんに呼び止められた。
人が足りてない卓に入るつもりだったんだけど、急用で出なきゃいけなくなっちゃってねぇ。
悪いんだけど、店番と代打ちを分担してやってくれないかい? 今、他に馴染みのお客さんがいないもんでさ……頼むよ。
いいですよー。じゃあ……白石さんは店番しながら後輩チャンと話してて。代打ちは私がやるよ。
後輩クン、大丈夫? さっき、オーラスでツモ番の度にあくびしてたけど。
ま、何とかなるでしょ……おかみさんが戻ってくるまで守備寄りで打って、大役に放銃しなければいいんだし。
後輩チャンは白石さんに相談があって来たんでしょ? 待たせるのもよくないよ。
……先輩が代打ちした方がいいと思います。後輩クンさん、もう目が閉じかけてますよ? 私、待てますから。
後輩チャンの意見を聞き、白石さんは私の肩をポンと叩いた。
後輩チャンもこう言ってるんだし、キミはゆっくり休んでてよ。愛ちゃん、ごめんね、もうちょっと待ってて。
じゃあ頼んだよ。なるべく急いで戻るからね。
おかみさんを見送り、私はレジカウンター傍の椅子に座った。居眠りを防ぐべく、愛ちゃんと雑談でもしてみよう。
後輩チャンこと「愛ちゃん」は、中学の時から白石さんにたくさんお世話になっているそうで、当時から白石さんは親切な人だったと教えてくれた。
あちこちで人助けして、みんなから信頼されてる奈々先輩って、かっこよくないですか!?
うんうん……
私は先輩みたいにかっこいい人になりたいんです! それで、先輩を追って朝葉高校に入学して……あ、ごめんなさい、ちょっとテンションが上がりすぎちゃいました。
いいよ。誰かから必要とされる存在になるって、すごくかっこいいよね。
ですよね!? 奈々先輩の後輩同士、やっぱり話が合いますね、私達! 後輩クンは……あ、これは先輩専用の呼び方でした。なんてお呼びすればいいですか?
PLAYERでいいよ。
PLAYERさん、居眠りしたくないんだったら、スマホで友人戦しませんか?
あはは……麻雀で眠気覚ましするんだったら、やっぱり私が対局に行くべきだったね。
あっ、じゃあさ、君の段位戦を横で見てるよ。何切る問題だと思えば、眠気覚ましにもなるし。
会話のタネも尽きかけているし、気まずい雑談を続けるよりも、こっちの方がいいだろう。愛ちゃんも特に反論せず、すぐゲームを開いてマッチングを始めた。
……ん? 対局が始まったけど、愛ちゃんは同卓者のプロフィールを一人ずつ確認している。
プレイスタイルを確認してるの?
いえ、私はスタイルとかはよくわかんなくて……ただ、段位ポイントを確かめたいだけです。んー、この人はもうすぐ落ちそうですね……
段位ポイントか……降段ギリギリだと、いつもより掛かり気味に打つようになる人もいる。愛ちゃん、この点を考慮して作戦を練っているのかも。
一時間後
ごめんねぇ! 銀行混んでて、時間かかっちゃった。待たせたね。
大丈夫ですよ、じゃあレジ交代しますね。
ふふっ、今度来たら場代サービスしたげるからね。
あはは、ありがとうございます。愛ちゃ……おっと。
白石さんの代打ちの様子を見に行こうよ、と言いかけたが、愛ちゃんの対局もオーラスに差し掛かっていたので、ひとまずこっちを見守ることにした。
二位と13000点差のトップ、四位の対面がリーチしている状況か。守りに専念すれば、このままの順位で終われるだろう。
……と思いきや、画面から目を離したほんの一瞬の間に、何を血迷ったのか危険牌を打った! ド派手なカットインが入り、手牌が展開される……愛ちゃんは、対面に倍満を放銃してしまった。
うわ……手が滑っちゃった。隣を切るつもりだったのに。
素直に北の暗刻を落とせば起こらなかったであろう誤操作だった。他家の攻めを恐れて、数巡前に切られていた数牌を先に処理しようと思ったんだな。
くやし~、でもこれで対面の人は降段せずに済むだろうし、これも一日一善ってやつかな。
ただいまー。ウチの可愛い後輩たち、楽しんでる?
ぼちぼちね。じゃあ私はこの辺でお暇するから、二人でゆっくり話しなよ。
すいません、その、あなたも一緒に聞いてくれませんか?
私も?
実は……週末、近くのショッピングモールで麻雀の交流大会が開催されるんですけど、今私とクラスメイトでチームを組んでて、あと二人足りないんです。
なるほど、それでウチにヘルプを出して、ついでに後輩クンにも参加してもらおうってことかな?
わ、私も?
その通りです! よく麻雀会館に出没するって奈々先輩から聞いたので……麻雀、上手いんですよね?
上手いかどうかは置いといて、なんでまた、私のこと一日中麻雀してばっかりのニートみたいに……
……違うの?
え、……本気で言ってる?
ふと、以前玖辻につけられた称号が懐かしくなった。なんだっけ、魂天神社の巫女の保護者、朝葉高校の多くの生徒達の親友、サーカス団「Soul」の筆頭外部団員……ダメだ長すぎる、以下略。
細かいことは気にしない気にしなーい。それで、後輩クンは週末空いてるの? ウチとチームで麻雀なんて、青春を謳歌する大チャンスだよ。
予定を聞いてくれて助かったよ、じゃないといよいよ本物の暇人だと思われるとこだった。ま、今週末は土日両方空いてるんだけどね……。愛ちゃん、時間と場所は?
愛ちゃんは詳細な日程を私達に教え、「よーし、メンバーが揃ったこと、クラスメイトに言ってきます!」と言い残し、バタバタと麻雀会館を出て行った。
白石さんリスペクトで、一瞬の暇も無駄にしない子だね。
アハハ、元気があってめっちゃいいじゃん! じゃあまた週末ね、後輩クン。当日はコンディション整えて来てね、今日みたいにぼーっとするのはナシだよ。
任せといて。じゃあまた試合で。
やっぱり白石さんは私のことわかっていないんだな。私は、麻雀の試合には全力を尽くすんだぞ。
時は過ぎて、試合当日。抜けるような青空が広がっているが、昨晩雨が降ったせいで家の前のシェアサイクルはびしょ濡れだ。やや出鼻をくじかれた気分だけど、まだ時間も早いし、歩いて行けば問題ない。
のんびり歩いてショッピングモールに向かうと、もう白石さんは到着していた。
おはよ、後輩クン。早いじゃん。
おはよう。でも白石さんの方が早いよ。
へへ、この先輩より早く着いておこうなんて、キミにはまだ早いよ。
待って待って、「早い」が渋滞してて文章題みたいになってるって。 ところで、白石さんは歩いてきたの? それとも走ってきた?
走ってきたよ。空気がおいしいし、運動しないともったいないから。
だと思った。なら、歩いてきた私も同レベルでしょ。
お、今日は引かないねぇ。でも、試合ならそういうメンタルでいる方がいいよ。うんうん、しっかりしてるね!
行こっ、こんなに天気がいい日だもん、優勝目指すしかないでしょ!
自信ありって感じ?
ふふん。今朝カーヴィさんの占い屋の前を通りがかったんだけど、「今日のあなたの運勢は爆ヅキです、何をしても上手くいくでしょう」って言われたんだ~。
えっ……あの人、いいことも言うんだ!? 私の時はいつも「女難の相が出ています」なんて言って、それにかこつけて怪しい開運グッズを売りつけようとしてくるのに!
怪しい開運グッズ? いつも「運命は絶対」って言ってる人が、そんなもの売りつけるわけなくない?
先月、「新しい事業を始めたの。お得意様の君になら、特別に『フォーチュンサポート』サービスをご案内しましょう」なんて言われたんだけど、白石さんは言われなかった?
言われたことないよー。最近だけでも七回は占ってもらったけど、一度もね。
つまり、私だけを狙ってカモろうとしてるってことだな……!
そろそろ時間だし、入ろっか。あんまり後輩チャン達を待たせても悪いし。
え? 二人とも着いてるの?
そうだよ。
珍しく早起き出来たのに、どうしてそんな日に限ってここまで徹底的に負けるんだ……
控え室
この日、私達のチームは、カーヴィさんの占い通り全員がツイていた。最初の二試合を終えた時点で、私たちの点数は他のチームを大幅に引き離してリードしていた。このまま行けば、本当に優勝出来るかも!
あっという間に、ベスト8を決める重要な局面を迎えた。大将の白石さんは、自分の試合が始まらないうちに何か食べておこうと、後輩を一人連れて買い出しに行った。副将の私ともう一人の後輩は、控え室に備えつけられたテレビで試合の中継を見ていた。
私は試合の様子を見て、思わず眉をしかめた。
ロンだ!
愛ちゃんの下家の男の子が、嬉しそうに点棒を受け取っている。愛ちゃんがその子に放銃するのは、これでもう三回目だ。
最初はスジを頼って放銃し、次は追っかけリーチで一発、そして今は安牌があったのに無理やり危険牌を押した。
男の子のチームは最初最下位だったのだが、この三回のあがりで三位に浮上した。まだ南一局であることを考えると、この半荘が終わる頃には二位もあり得なくはない。
私は各チームの点数をチェックしてみた。私は最初、自分達が大きくリードしていたから、油断してミスを連発したのだと思っていた。
しかし、男の子には何度も放銃しているのに、他の二人のリーチにはきっちり守っているのを見て、嫌な考えが頭を過ぎった。愛ちゃんは、不正をしているんじゃないか?