[player] ……ん? あそこにいるのは、ゆず……?
[-] 遊園地をぶらついていると、近くにオレンジ色のフード姿が見えた。何度も同じ場所を行ったり来たりしていて、ふわふわの尻尾が時折花壇を撫で、花びらを舞い上がらせている。
[-] しばらく様子を見ていたが、愛と平和と花を守るべく、話しかけにいくことにした。
[player] おはよう、ゆず。ずっとウロウロしてるけど、何か探し物?
[player] あ、それとも、どのアトラクションに乗るか悩んでるとか?
[ゆず] PLAYERか? おはよう。今は遊んでる場合じゃないのだ、パトロールで忙しいからな、キュルルゥ。
[player] パトロール?
[ゆず] ルールを守らない悪い子がいないか、見張ってるのだ。
[player] 悪い子……?
[ゆず] キュルルゥ、簡単に言うと、遊園地で人を困らせる奴なのだ。
[player] 人を困らせる奴……?
[ゆず] いちいち繰り返すのは禁止なのだ! キュル!
[player] ぎ、御意っ、キュル!
[-] レッパンズに威嚇されるより前に、私は降参の意思を示した。
[-] 時々ゆずをいじ……じゃなくて、からかうのは楽しいけど、それで袋叩きにあったら元も子もない。レッパンズは、動物園のかわいい同類に比べて、間違いなく戦闘力が高いのだ。
[player] でも、ここはセキュリティーもしっかりしてるし、警備員さんが治安を守ってくれてるから、心配無用じゃない?
[ゆず] キュルルゥ、PLAYER、甘いのだ。
[ゆず] 規則の穴を突く輩が現れた時こそ、正義の魔女の出番なのだ。
[ゆず] 例えば……おまえの右後方! キュル!
[-] ゆずが指さす方を見ると、近くでカーヴィが誰かを占っているのが見えた。その光景を見て、私は一飜市の路上に戻ってきたかのような感じがした。
[-] そう遠くない距離なので、カーヴィとお客さんの会話が聞こえてきた。
[???] 奇遇だな、まさかカーヴィさんもここで働いてるなんて。
[-] 服装からして、客の方はこの遊園地の警備員だろう。あれ、でも今は勤務中のはずだよね?
[カーヴィ] ……ええ。
[警備員] 僕を占ってくれるかな?
[カーヴィ] 何を占いましょうか?
[警備員] いつになったら君が僕の彼女になるのか。
[カーヴィ] そのような日は来ません。
[警備員] 占ってもないのに、なんでありえないってわかるんだ! そんなの信じないぞ!
[カーヴィ] わかりました……
[カーヴィ] 水晶玉には、私達には恋愛のご縁など一切ない、また、この先五年ほど、あなたには恋人が出来ないと出ています。
[警備員] いやいや、まだ納得できないぞ。タロットカードでも占ってみてくれ! だって……だってあの日、街で君の店の前を通った時、君は微笑んでくれたじゃないか! これは運命に違いない! 君が僕に惚れている証だ!
[-] 斬新なアプローチを目の当たりにし、私はつい呆気に取られた。
[ゆず] キュルル、この女はウソをついてないぞ! おまえ達に縁がないことは、占うまでもなく、誰が見てもわかることなのだ。
[-] いつの間にか出店の隣に移動していたゆずが声を発した。私も慌ててそばに駆け寄った。
[player] なんでまた急に、カーヴィの肩を持つようなことを?
[ゆず] こいつは悪い女だが、今回は珍しく嘘をつかなかった。それに、ゆずは困ってる奴がいたら放っておけないからな。
[ゆず] しかも……おまえはここの警備員だろ? 今は勤務中じゃないのか? なぜ客のようにこんな所で占いを頼んでるのだ?
[警備員] 僕……僕は……君みたいな小学生に、僕の何がわかるんだ!
[ゆず] し、小学生だと? キュルルゥ……レッパンズ、かかれ!
[警備員] うわーっ!? や、やめろ! やめろと言って、痛ッ……言っとくけどな、僕には後ろ盾があるんだぞ、君達は――って噛むなっ、なんなんだこいつら。噛むなって、痛いだろ!
[player] へぇ、バックに人がいるんだ。
[-] 私はスマホで動画を撮り、簡単な説明とともに、斎藤さんへチャットで送った。さりげなく、かつ流れるようなこの一連の動作……私は、影だ。
[-] 人脈という点において、市内で私の右に出る者はいない。
[カーヴィ] ……あら? 皆さん、奇遇ね。
[ゆず] キュルルゥ、言っとくが、ゆずはおまえを助けたんじゃないぞ、仕事をサボる奴が気に食わないだけだからな。
[カーヴィ] あらそう? 私もお礼を言う気は無いわよ。
[ゆず] やはりおまえみたいな嘘付き性悪女は、善悪の区別もつけられないのだな!
[カーヴィ] 経営許可を取って、真っ当に商売をする人を性悪女と言うのなら、何の資格も無いのに規則を振りかざす君の方がよっぽど悪い子よね。
[ゆず] キュル! 正義を守るのは義務、他人の許可を得る必要はにゃっ……
[ゆず] ううー、ひはをはんはのは、いはいのはー!(舌を噛んだのだ、痛いのだー!)
[カーヴィ] クスクス……PLAYERはどう思います?
[player] え?
[ゆず] PLAYER、おまえはどっちの味方なのだ?
[-] カーヴィとゆずが、ずいと近づいて私の手を掴み、期待に満ちた眼差しで見つめてきた。
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