[-] 私は様々なゲームで素晴らしいリザルトを出してきた、こういうのはちゃんとエイムすれば……って、キーボードもマウスもないっつーの!
[player] くっ……どうすれば……
[-] 私はその場に立ち尽くし、鶏の動きをただじっと見ている他なかった。
[-] あいつは私から1メートルほどのところで羽を広げ、私の頭でも飛び越そうとしているかのように、羽をばたつかせながら飛んできた。長く強力な爪で私の肩を踏みつけると、爪が私のコートに食い込んでしまった。
[-] 一瞬、肩を力強く引っ張られたかと思うと、もがいていた鶏はやがてバランスを失い、ちょうど私の腕の中に収まった。
[-] なるほど……爪がコートに引っかかったんだな。
[player] (小声で)こんなことをするのは、道端の野良猫くらいだと思ってたけど……
[青い服の少女] わぁ! すごーい! わたしと苑で一時間かけても捕まえられなかったのに。
[-] 私の体から鶏を「取り外す」と、「包丁少女」は首をかしげ、やや困惑したように私を見た。私の方は、さっきの会話から、この人の正体に気付いていた。「竹雲」の巫覡(ふげき)・苑。他でもない、私が探していた人物だ。
[苑] あなた、「無双街」の人じゃないですよね? 祠堂に何の用ですか?
[player] 初めまして、私はPLAYER。今回の「竹雲」周年祭準備における督促係です。これが私の社員証です。
[青い服の少女] 督促って……ぷぷっ。つまり「監督者」でしょ。
[苑] 確かに、監督者が神巡りを手伝いに来ると楓花様が言ってたな……初めまして、私はここの巫覡、苑です。
[青い服の少女] 私は劇団「浮夢」の花語青(カゴセイ)、この街に住んでるんだよ~。はじめまして、監督者さん。
[player] 実際に「監督者」なんて呼ばれると落ち着かないなあ……実のところ、私がここに来たのは、急かすというより手伝うためなんです。何か仕事で問題があったら、いつでも言ってください。
[苑] ですが……
[-] 苑は私を見つつ、少し思い悩むような表情を浮かべた。
[苑] これから香を焚いて身を清め、ご先祖様と意思を通わせないといけないので、その、多分……
[player] ……
[花語 青] 多分じゃなくて、間違いなく邪魔なんだよねー。ほらほら、部外者がいると苑も何かと困るから、この街で一番美味しい南湘の牛肉米線をご馳走してあげるよ。
[-] 青さんは私を引っ張りながら祠堂を出た。
南湘牛肉米線屋
[花語 青] すみません、おすすめの麻辣牛肉米線、二つ!
[-] 祠堂を出ると、青さんはすぐさま祠堂近くの「南湘牛肉米線屋」という店に入り、席についた。南湘は一飜市よりも南にある地域で、店内にはどこか南湘の情緒を感じるような香りが広がっている。さすがは一飜市の中でも南湘の人が多く集まる無双街、まるで南湘に来たみたいだ。
[花語 青] ちょっと待っててね。爆竹が鳴ったら、「神招き」に参加出来るから。
[player] 「神招き」?
[花語 青] 南湘人の風習では、「神招き」って儀式で、ご先祖様が俗世に遊びに来てもいいよーってなってくれた時だけ、神巡りが出来るんだ。神巡りをすると、新しい一年もみんなご先祖様のご加護を得られるんだよっ。
[???] 牛肉米線二つ、お待ち! ごゆっくりどうぞー!
[花語 青] あれっ? 李さん、おすすめの麻辣牛肉米線二つって頼んだんだけどー!
[-] 私の前には、ラー油のようなものが浮いたいかにも辛そうな牛肉米線が置かれたが、青さんの方は全く辛そうに見えない。
[李店長] あの、青さん。この前白さんに言われたんすよ、「しばらくはあっさり味の米線しか出すな」って。
[李店長] すいませんね、これも周年祭のパフォーマンスのため! あと少し辛抱してください! それでは失礼します、お二人ともごゆっくり。
[花語 青] え? ちょ、私は……
[-] 青の機嫌を損ねたくないらしく、李はそそくさと厨房に逃げ込んだきり姿を見せなくなった。
[花語 青] 私の麻辣牛肉米線がぁぁ~……うぅっ……
[player] 周年祭のパフォーマンス……?
[花語 青] んぇ? あなた、「竹雲」の監督者なんでしょ? 私達「浮夢」は、「竹雲」から周年祭に出てパフォーマンスして~って依頼を受けてるんだよ。知らないのぉ?
[player] ちょっとスケジュールを確認してみる……うーん、やっぱり書いてないな。他の人の担当なのかも。
[花語 青] あーあ、ざんねん。こーんなに面白い監督者さんなのに、私たちの所の担当じゃないなんて。きっとお姉ちゃんも面白いと思ってくれるはずなのになー。
[花語 青] はぁ……この米線、赤の「あ」の字もない……。見てるだけでしょっぱい気分。あなたにあげる。
[-] 青さんは露骨に嫌そうな顔をして、自分のお椀を私の方に押しやった。
[花語 青] おっ?
[-] にわかに外から爆竹の音が聞こえてきた。その瞬間、賑わっていた牛肉米線屋の客や店員までもが揃って手を止め、外へと駆け出した。
[花語 青] わぁ、「神招き」が始まった! さっすが苑、仕事が速いっ。
[-] 青さんは、一口目の米線を口に運ぼうとしていた私を引っ張り、他の人達に続いて祠堂へと走っていった。
[player] 私の米線が~~~……
祠堂
[花語 青] ふ~、とうちゃーく。今日は人が多いねぇ。
[-] 祠堂に戻ると、そこはすでに何重にも重なった人の群れに囲まれていて、青さんの助けあってようやく前列に辿り着いた。
[-] 沢山の短冊を吊るした老木の下には、様々なお供えの料理が所狭しと並べられた祭壇が設えられていた。さっきの鶏は、今や赤い紙を乗せられた茹で鶏になっていた。
[-] 中庭中央の開けた空間に、軽やかな銀の鈴の音が響く。古めかしく簡素なお面をつけた苑さんが、楽師の銅鑼の音に合わせて、古風かつ神秘的な舞を舞った。
[-] 彼女の動きはどこか異様でもあり、目に見えないオーラのようなもので周囲の人々を黙らせた。
[-] 演舞終了
[-] 苑さんは悠然とした足取りで人々へ近づき、お面越しに人々の顔をゆっくりと見回した。まるで何かを探しているようだった。
[player] (小声で)苑さんは何をしてるんですか?
[花語 青] (小声で)しー、喋っちゃだめっ。
[-] 青さんは緊張した様子で私の耳元に近づき、息遣いしか聞こえないくらいに声を抑えた。
[花語 青] (小声で)でないと、まずいことに、なる、かも……
[-] まずいことって、どんなことだろう? 想像していたまさにその時、群衆の中から不意に大きなくしゃみの声がした。すると、苑さんの動きがぴたりと止まった。
[中年男性] あっ、あああ、も、申し訳ない。僕のことは殴ってくれて構わない、しかし追い出すのだけは……あんまりだ、ご先祖様、ご先祖様がお戻りになる所を、どうかこの目で見させてくれよ~~……
[-] 大きなくしゃみをした中年の男性は悲しげに叫んだが、怒った人々により連れ出されてしまった。
[花語 青] (小声で)これでわかったでしょ?
[-] 私は恐くなって頷いた。
[-] 話しているうちに、苑さんは元のゆったりした状態に戻り、引き続き周りを一周し、やがて一人の前で立ち止まった。群衆は即座に羨望の滲んだため息を漏らし、沈黙が破られた。
[花語 青] ふー……今日の「幸運児」が現れたよ。この後の「神招き」が成功するかは、あの人次第。
[-] 苑さんと選ばれた人は祭壇の前に向かい、天地四方に順番に線香をあげて礼拝した。その後苑さんは、祭壇に置かれた木箱から手のひら二つ分ほどの大きさの木の道具を二つ取り出すと、その人に手渡した。
[花語 青] あれは「ポエ」って言うの。南湘人が、ご先祖様とお話する時に使う媒介だよ。
[-] ポエには二つの面があり、片側は丸く膨らんでいて、もう片側は平らになっていた。選ばれた人がポエを放り投げる。群衆は固唾を飲んでその様子を見守った。
[-] ポエが地面に落ちた時、二つとも膨らんだ面が上を向いていた。人々は一斉にため息を漏らした。
[花語 青] ……「陰杯」だ。ご先祖様がお誘いを断ったってこと。
[player] 失敗ってこと?
[花語 青] ううん、まだチャンスはある。「陰杯」が三回出たら、断られたってことになっちゃうの。
[-] 周囲の大きな期待を背負った「幸運児」が再びポエを投げた。緊張しているのか、青さんが私の腕をぎゅっと掴んだ。
[-] しばらくして
[-] ……残念ながら、二回目も「陰杯」だった。
[-] 人々はざわめき、「幸運児」は肩を落として戻ってきた。
[player] この反応……「神招き」は失敗したってことですか?
[花語 青] うん。また、失敗した。
[player] また?
[花語 青] 「神巡り」が始まるまでの間は、吉日になる度に「神招き」をするんだけど、一度や二度の失敗はよくあることなんだ。でも今年は……
[住民A] はぁ、これで何度目だ、本当に上手くいくのか?
[住民B] 周年祭まであと少ししかない。「神巡り」はおろか、「神招き」すら出来ていないなんて……
[住民C] このままでは、今年はご先祖様をお呼びできないんじゃないか? そうなったら、「神巡り」はどうなる?
[-] 小さな呟きが大きな波乱を呼び、議論の声が次第に大きくなっていった。そんな中、お面を外した苑さんは、落ち着き払ってポエを拭き、木箱の中にしまった。周囲の声などまるで気にかけていないように。
[???] 時間が無いんだ、「神招き」なんてもんは形だけやっておきゃいいだろ。重要なのは、今年の「竹雲」の周年祭で、大勢が楽しみにしてる神巡りをやらないってことになったら、大恥をかくってことだ!
[-] 突然、群衆の中から一人の男性が進み出て来て、苑さんにストレートな文句を言った。その男性は、先ほどの牛肉米線屋の店長、李さんだった。
[-] その言葉を聞き、平静を保っていた苑さんの表情が険しくなった。
[苑] ご先祖様への敬意なき「神巡り」など、意味がありません。このことは、もう何度も申し上げたはずです。「竹雲」の祭祀を担う巫覡として、度を越えた振舞いには決して屈しません。
[李店長] じゃあ、今年の「神巡り」が出来なかったら、誰が責任を取るってんだ? あんた、インチキ巫覡じゃないだろうな?
[花語 青] ちょっとぉ、なんでまたケチつけようとするのー!?
[-] 青さんの言葉からして、今まで何度もこうした状況に陥っているみたいだな。
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