そんなに恥ずかしがるなんて、逆に気になるじゃないか。もう少し突っ込んでみよう。
もちろん、これはあくまで明智くんのことをより深く知るためだ。
[player]本当にこの曲知ってたの……?
予想外の切り返しだったのか、明智くんは明らかに表情が硬直した。目を瞬いて、窓の外の方に顔を向けてしまう。
[player]ふーん。本当は聞いたことないんだ。
[明智英樹]それは……
BGMが切り替わり、ゆったりとしたピアノのメロディが流れて、時間の流れもより緩やかになったように感じる。
明智くんは口を開けては閉じて、弁解のための言葉を一生懸命捻り出そうとしている。可哀想だからそろそろ話題を変えようと思った頃、彼はこう言った。
[明智英樹]PLAYERさんにバレたくなくて……。
[player]どういう意味……?
[明智英樹]普段は麻雀部で会うことが多いですし、部員のマネジメントや対局といった、僕の得意な所しか見せてないじゃないですか。
[明智英樹]もしこんな所で、「あの明智くんにも知らないことがあるんだ」なんて思われたら、君に幻滅されてしまうんじゃないかと……。
顔を伏せたまま弁解する明智くん。そして彼は顔を上げ、いつもの笑顔でこう言った。
[明智英樹]でも、もし本当の僕がこんな風でも好いていてもらえるのなら、僕も嬉しい限りなんですが。
明智くん、さらっと恥ずかしいセリフを言うじゃん。さも当たり前みたいに言うから、一瞬何を言ってるのかわからなかったよ。
[player]そうだね、完璧人間の明智くんより、こういう人間味のある明智くんの方がいいと思う。
[明智英樹]完璧じゃなくても、いいんですか?
[player]もちろん。私だって全てが完璧なわけないじゃないけど、明智くんはこうしてよくしてくれるしね。
明智くんは瞬き、澄んだ青い瞳が雄弁に煌めく。
[明智英樹]嘘をついてすみませんでした。本当はその歌も、バンドのこともよく知らないです。どっちかというと、クラシックの方がよくわかります。
[player]正直に言えてえらい。今度機会があれば、ポップスの魅力を教えてあげる。クラシックにはないような情熱的なものを感じられると思うよ。
[店員]お待たせしました。スペシャルブレンドとケーキのセットです。
ちょうどお腹が空いてきたところで、店員が私たちが注文したコーヒーとケーキを持ってきた。でも変だな、どう見てもコーヒーでもケーキでもないものが混じってるみたいだけど?
[明智英樹]これは何ですか?
[店員]はい、こちらはミュージックフェスとのコラボ特典です。コラボ期間中にセットをご注文されたお客様に差し上げております。また、会計後に抽選にも参加出来ます。フェスのペアチケットなどが当たるんですよ。
[明智英樹]ミュージックフェス?
[店員]はい。間もなく開催されます。今流行りのバンドからデビューしたての歌手まで勢揃いです。先ほどお客様がお話されていた、ポップスを知る機会にはうってつけだと思いますよ。では、ごゆっくりどうぞ。
[明智英樹]ありがとうございます。
明智くんは特典のマスコットキャラクターをじっと見つめてから、私の方を向いて尋ねた。
[明智英樹]と、いうことですので、一緒に、フェスに行きませんか?
[player]もう特賞を引いた気になってる!? はずれたら悲しくない?
[明智英樹]ただ君と一緒に行きたいと思っただけです。それに、今日外れてもまた明日、明後日……と君をカフェに誘う口実が出来ますので、僕としては全く損にはあたりません。二人で抽選すれば当選確率も二倍ですし、君も断らないだろうと思いまして。
冗談めかした言葉に、より親しみやすくなったなと感じ、私は誘いを受けた。
[player]いいだろう、この私がポップスの手ほどきをしてしんぜよう。
それを聞いて、明智くんはまたいつもの笑顔に戻ってくれた。でも、この笑顔にいつもは見せない何かが乗っているように感じる。うまく説明出来ないけど、きっと今の明智くんは心から笑っているんじゃないかと思う。
ミュージックフェスか……もう停電はしないでくれよ?
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