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応じるbaishinainai06

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いいっちゃいいけど……
そこで言いよどむことある? でも、よかった! 後輩クンなら付き合ってくれるって思ってたんだ。
喜ぶにはまだ早いよ。急にデートに誘うだなんて、何か理由があるんだよね? ただの思いつきだなんて言わないでよ。
あー……いつもすっごく鈍感なくせに、なーんで今日はそんなに鋭いのかなぁ。
はやく白状しないと気が変わっちゃうよ。
ダメダメ、言うから、言いますから! 実はね、何日か前、同級生と話してて……
奈々、来週末のカラオケ、本当に行かなくていいの? バスケ部のイケメンルーキーも参加するのに~。あいつ、元気で明るいスポーツ系女子が好みらしいし、このチャンスを逃すなんてもったいないよ!
う、うん。来週末は用事があるから、皆で楽しく遊んできなよ。
は~あ、奈々ってば、男の子紹介してあげてもいっつもあーだこーだ言って逃げるんだから。青春は一瞬なのに、未だに奈々には春の気配がないよね~。
毎日予定が詰まってるの、知ってるでしょ。土日はいつも運動部の助っ人だし、恋愛してる暇なんてないよ。ていうか、ウチの恋人はこの学校さ! みたいな?
いや冗談じゃなくて、真面目に言ってるんだよ。「恋愛のための時間は、スポンジが吸い込んだ水のように、絞ればいくらでも出てくるものだ」って言うでしょ? 今すぐ付き合わなくても、色んな子と知り合って将来のために準備しておけばいいのに、そういう考えにも至らないなんて……はっ、まさか……
実は学校の外に秘密の恋人がいて、その人が許さないから合コンにも参加しない……とか?
何言ってんの、本当に超忙しいだけだってば。
うーん……まあそうだよね。本当に恋人がいたら、恋愛委員会の委員長であるこのヨシコ様が気付かない訳ないもん。
いつの間にそんな委員会が……? 副会長に報告してあるのかな……
ふふっ、本当によしこちゃんが気付いてないだけだったりして。私、奈々ちゃんが知らない人と一緒に遊んでるの最近よく見るよ。その人、うちの生徒じゃなさそうなんだよね。
そういえば、何日か前、奈々っちが知らない人の手を引きながら、ゆずちゃんとアラスカン・マラミュートから逃げてるの見た! もしかして同一人物?
み、見間違いだよ。手なんて繋いでないし。
あ! まさかその人って、奈々がよく言ってる「後輩クン」?
はぁ!? ウチと後輩クンはそんなんじゃ……
へぇ……アタシの恋愛センサーが反応しないことがあるなんてね。さっすが奈々、完璧に隠して付き合ってたんだ。正直に言いなさい! その人は誰? どうやって知り合ったの? いつから付き合ってるの!?
よ、よしこが思ってるようなことはないよ。
言い訳するってことは誤魔化してる、誤魔化してるってことは認めてるってことだよ。群衆の目は欺けぬ、見苦しい弁明はこのくらいにしたまえ、奈々クン。
アタシ、今週末にカレとデートするから、アンタもその人を連れてきて。アタシが連れて来たイケメンたちに見向きもしない奈々が夢中になってるその人を、アタシにしっかり紹介するように。てことでよろしくー!
ま、待って。よしこ、話を聞いて!
……なるほどね。全部わかったよ。けど、ただの誤解なら、どうしてその場でちゃんと説明せずに、こうして偽の恋人役を探してるの?
そうしたいとこなんだけど……一応自分なりに考えた結果なんだ。
よしこはいっつもグイグイ男の子を紹介してくれるから、断る回数も多くなってて、ちょっと申し訳なくてさ。誤解されてる今がむしろチャンスかなって。いっそウチに本当に恋人がいるって信じ込ませれば、もう男の子を紹介してくることもないでしょ。
なるほど、一理あるね。
前ニュースで見た話では、年長者からの結婚の催促を避けるため、わざわざ報酬と引き換えに偽の恋人を用意して帰省し、ひと時の平穏を得る人もいるらしい。白石さんも同じような方法で、圧が強いクラスの友達に対処しようとしているってことだ。
お願い、後輩クン! こんなこと、ウチが一番信頼するキミにしか頼めないんだよ、ホントお願いします!
……わかったよ、出来る限り協力する。ただし、バレた時は自力でなんとかしてね。
キミが手伝ってくれるなら、後はオールオッケーだよ! ありがとね、後輩クン! ここはウチが出すから、食べ物も飲み物も好きなだけ……あ、や、やっぱりちょーっとだけ手加減して。ウチ、今お小遣いピンチで……
大した手伝いじゃないし、そこまでしなくていいよ。デートの前に、当日の作戦を考えておこう。会って早々にボロが出たら気まずい所の話じゃなくなるし。
ここまで弱った様子で助けを求める白石さんを前にして、「一番信頼出来る後輩クン」である私が何もしないのは無理というものだ。
何より、今回の誤解のもとになった噂には、私もちょっと関係してるし……
そして迎えたデート当日、私は自主的に早起きして、ちょっといい服を着て家を出た。気持ち早めに集合場所に着き、しばらく野良猫と遊んでいると、白石さんがショルダーバッグを肩にかけて歩いて来た。
あれ? 珍しいね、後輩クンが先に来てるなんて。
今日はデートでしょ? 待たせる訳にはいかないよ。
へへっ、わかってんじゃん。どのくらい待った? もしかして……この辺で野宿しちゃうほど今日のデートが楽しみだったとか?
そんな大げさな、三十分くらい早く着いたってだけだよ。どう? 今日のデート、大丈夫そう?
安心して! 今日のためにめっっちゃ準備したんだ、全部やり遂げてみせるよ!
何をやり遂げるの?
えっ……よ、よしこ、おはよう。いつの間に来たの?
アンタがやる気満々に「全部やり遂げる」って叫んだ時ね。
終わった。今回のデートは「創業未だ半ばならずして、中道に崩殂」してしまった。
アンタたち、もしかして……
な、何……?
このデートの後にも予定があるんでしょ。たとえば、夜のプライベートデートコースとか。グヘへ、そうなんでしょ~?
ア、アハハハ……何を言うかと思ったら。ウチはただ、今日のデートを全力で楽しみたいだけ。だから、下世話な想像も、グヘへ笑いもやめて。
わかった、もうからかわない。それで、アンタの隣にいるのが「後輩クン」ね?
はじめまして、PLAYERと言います。
あ~、そういう堅苦しいやつはいいって。アタシのことは、奈々みたいに「よしこ」って呼んでくれればいいから。で、こっちは、アタシの彼氏。
なんてお呼びすれば? あなたがよしこさんだから、彼氏さんはよしお、なんてことはないよね?
え? まさか君、超能力者? なんで俺の名前を知ってるんだ?
……本当に「よしお」って名前なの!?
よし、自己紹介はこのくらいにして、予定通り映画を見に行こー。
行こっか、PLAYER。
……、うん、そうだね。
どうしたの? ボーッとしちゃって。
「後輩クン」って呼ばれるのに慣れちゃってて、名前を呼ばれた時咄嗟に反応出来なかったんだ。
そういうことか。じゃあ、もっとわかりやすい呼び方にする? 「ダーリン」とか。
ヒェ……鳥肌立った。
ホントにーー? 信じられないなぁ。ダーリン。
そっちがその気なら、私も遠慮しないよ、奈々ちゃん。
うぇっ!?
私が白石さん……いや、奈々ちゃんと手を繋ぐと、奈々ちゃんは驚いた猫のように飛び退った。前を歩いていたよしこがそれに気付き、じーっと疑惑の目を向けてきた。
んー? 奈々、どうしたの?
なんでもないよ。私の手が冷たかったみたいで、手を繋いだら驚かせちゃったんだ。
そ、そうそう。キミ、なんでそんなに手が冷たいの? 運動サボってるんじゃない? 手、出して。さすってあげる。
ありがとう。……慌てないで、手を繋ぐくらいカップルだったら普通でしょ? いちいち騒いでたらもたないよ。
はーっ……それはそうだけど……キミだって顔が真っ赤だよ?
私のは違う原因によるものだよ……
だって、「さすってあげる」としか言われてなかったんだぞ。そんな風に手に息を吹きかけて温めてくれるとは聞いてなかったんだから仕方ないじゃないか!
奈々、見たいやつある? なかったら、話してた通り「ロマンチックな休日」にしようか?
オッケ~。ウチ、クーポン持ってるからチケット買ってくるよ。
……調べてみたら、文学的なラブロマンスって出て来たけど、こういうのが好きだったの?
正直そんなに興味ないんだけど、デートだとこういう映画を選ぶのが正しいんでしょ……
あれ? 仮面ヒーローの新作!? なんでもうやってんの!? ……あ、試写会か。公開日はもう少し先のはずだもんね。
そういえば、奈々ちゃんは仮面ヒーローが好きだよね。子どもの頃、ヒーローショーのステージで大活躍したんでしょ?
そうだよぉ、ウチが初めて怪人と真っ向勝負したの。まあ、今ヒーローショーを見に行った所で、もうステージに立つチャンスはないんだけどね。
奈々ー、チケット買えたー?
あ、ゴメン、もうちょい待ってて。あとちょっとだから。
ねぇ、仮面ヒーローの映画が見たいんじゃないの?
また今度弟と一緒に観るよ、あの子も仮面ヒーローが好きだし、そもそももう4人分も並んで座れる空席ないだろうしさ。あ、でも今日は来場者特典の色紙をもらえたのかぁ、ちょっと残念かも。
そっか……