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群体

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[player] 私は群体だと思う。
[八木唯] どうして?
[小鳥遊雛田] どうして~?
[-] 私は思わず明後日の方向を向いた。二人の期待に満ちた眼差しを受け止め切れなかったのだ。
[player] ヒトデは、スライムを連想させるから……
[player] だから、ヒトデは、無数の小さなヒトデの集合体だとも考えられるなって。
[小鳥遊雛田] へ~、そういう考え方もありかも~。PLAYERさんは、本当に賢いな~!
[八木唯] 先輩、博学。プラス5点。
[-] ファンタジー方面の知識でも役に立つことがあるんだな、ホッとした。
[player] 二人とも、褒め殺しって言葉の意味をわかってるよね。
[八木唯] 集合体と褒め殺しと言えば、タコには心臓が三つ、記憶系統が二つ、神経回路が五億あるけど、3つに切り分けられても3匹のタコにはならないの。
[-] 不自然極まりない話題転換だな……。
[小鳥遊雛田] 心臓に合わせて三等分して、全部に心臓が一つずつ入るようにしてもダメなの~?
[八木唯] ダメ。結局、出来上がるのは食卓に並ぶタコのお刺身……うん、食べる時は、ハチミツをつけると、食感が更に良くなる。
[player] タコはその実とても賢い生き物だから、タコが君達の考えを知ったら、きっと傷ついちゃうだろうね……。
[player] 可愛いヒトデとタコのことは見逃してあげて、他のところを見に行こうよ。
[八木唯] 不自然な話題転換、マイナス5点。
[player] ……
[-] 反論しかけてやめた私を見た八木さんは、口角がまたかすかに上がったように見えた。
[八木唯] 実は今、この水族館に、海に詳しい人が来てるの。
[小鳥遊雛田] あ~、誰のことかわかっちゃった~。
[八木唯] うん、その人。
[小鳥遊雛田] やっぱりね~。
[player] ストップ! もったいぶった言い方しないで、誰なのか教えてよ。
[小鳥遊雛田] それは、あそこにいるあの人だよ~!
[-] 彼女達の指さす方を見ると、近くの大型水槽の辺りに、二つのよく知っている人影があった……ジョセフと一ノ瀬くんだ。
[player] 知り合いだったわ。
[八木唯] 先輩、交友関係が広いね。
[小鳥遊雛田] 不思議なジョセフさんにも聞いてみようよ~、さっき彼のそばを通りかかった時にちょっとお話ししたんだけど、海洋植物の習性や食べ方をたくさん教えてもらったんだ~。
[-] 前を歩いていく小鳥遊雛田と八木唯を見ながら、自分が来たのは水族館なのか、はたまたシーフードレストランなのか私は疑問に陥ってしまった……
[player] こんにちは。
[一ノ瀬空] コホコホ……PLAYERさん、こんにちは。
[ジョセフ] Oh, 我がパートナー! おまえも水族館に来てたのか。どうだ、楽しんでるか?
[player] うん、いろんな……奥深い海の知識を身につけたよ。
[ジョセフ] マイパートナーは海に対しても好奇心を持っているんだな。ちょうどこの少年に、ミステリアスな海洋生物と、そいつらに憧れた冒険者の物語を話してた所さ、HAHAHA。
[一ノ瀬空] だから、子供扱いしないでくださいって。もう中学生なんですから……
[小鳥遊雛田] 冒険者の物語? ジョセフさん、私たちも一緒に聞いてもいいですか~?
[ジョセフ] もちろんさ、キュートなレディ。今、冒険者が旅の途中で、海で一番寿命が長い生き物に遭遇したところまで話したんだが、みんなはそいつが何だかわかるか?
[小鳥遊雛田] わかりますよ~、ウミガメです!
[ジョセフ] No no no。
[小鳥遊雛田] あれ~、亀と言えば長生きのシンボルなのに、違うんですか~?
[一ノ瀬空] 亀が長寿というイメージは、実は人間の誤解なんだ。リクガメの平均寿命はおよそ三十~五十歳、ウミガメはもう少し長いけど、それでも平均年齢は百~百五十歳程度なんだよ。
[ジョセフ] そう、少年の言う通りだな。
[八木唯] ホッキガイ。
[player] よくお刺身の盛り合わせに乗ってる、あの赤っぽい貝のこと?
[-] まずい、私の思考回路までいつの間にか食の方向に……
[ジョセフ] HAHAHA、実は普段食べられているホッキ貝の身は、火が通ったものなんだ。赤色は一度加熱してから冷凍された身の色で、フレッシュなホッキ貝は……ああ、あそこに二匹いるな、見えるか?
[-] ジョセフが示す先を見ると、水槽の中の石の上に、成人男性の手のちょうど半分ほどの大きさの貝が二体いた。
[小鳥遊雛田] 今の状態だと、中の身は見られないですね~。
[ジョセフ] 水揚げされたばかりの時は、身は透き通っていて白っぽく、柔らかくて滑らかな口当たりなんだ。
[player] 生で食べたことがあるの?
[ジョセフ] Of course。海で嵐に遭ったおかげでありつけたぜ。
[一ノ瀬空] ジョセフさん、その話、もう少し聞いてもいい?
[ジョセフ] HAHAHA、少年はやっぱり冒険に興味津々だな。あれは何年も前、海に冒険に出た時のことだ。俺達は嵐に遭って、不幸にも船が座礁しちまった。しばらく漂流してたら、幸運にも近くを航行していた漁船に助けられた。
[ジョセフ] その漁船はホッキ貝漁をしてて、船にあったのはどれも、あの二匹よりもずっと大きくずっしりとしていて、食感も最高だったんだ……パートナーも試してみるべきだぜ、あの味は今でも忘れられない。
[player] 食べるまでにそんな冒険をしなきゃいけないんだったら、もう出来合いのものを食べるよ……
[ジョセフ] HAHAHA、けどな、危険を乗り越えた先で手に入れた食い物ってのは、格別にウマいもんだ。探検の醍醐味の一つだな。
[player] で、ホッキ貝の寿命についてなんだけど。
[小鳥遊雛田] ふふ……PLAYERさんってば、また話題を変えたね~。
[八木唯] 前に見たニュースだと、もう千歳を超えてるみたい。
[小鳥遊雛田] せ、千歳~!?
[ジョセフ] 千歳超えは確かに長生きだが、一番寿命の長い生き物はホッキ貝じゃない。
[ジョセフ] 俺は昔、熱帯の海域で、そいつの「若返り」の奇跡を目撃したんだ。大自然って本当に素晴らしいよな。
[一ノ瀬空] 若返り……ベニクラゲ?
[ジョセフ] Bingo! 少年、君は小さくとも大人顔負けの知識を持っているな。
[一ノ瀬空] いや、ただ……日頃から、少し本とかニュースを読んでるだけだよ。
[-] 一ノ瀬くんの表情が、わずかに曇った。何か言いかけたみたいだったけど……。
[player] 一ノ瀬くん、どうしたの?
[一ノ瀬空] いや、別に……
[player] 少し機嫌が悪そうだけど?
[一ノ瀬空] ……ジョセフさんの日常が、羨ましくて。
[player] 冒険の日々が?
[一ノ瀬空] うん、とても危なそうだけど、ジョセフさんは健康で、どこにでも行きたいところに行けて、自然が起こす奇跡をその目で見てるんだなって思って。
[player] 一ノ瀬くんにも出来るよ。ベニクラゲのように永遠とは行かないまでも、しっかり治療すれば、ホッキ貝の千歳くらいは目指せるよ!
[一ノ瀬空] ……ホッキ貝って聞いた時、キミはお刺身を最初にイメージしたよね。ボクは、食べ物になることを目標にはしないよ。
[player] ……
[ジョセフ] マイパートナー、そして少年、コソコソ何話してるんだ?
[八木唯] 先輩、何か隠してる。
[小鳥遊雛田] え~? 私達に言えないことなの~?
[-] 一ノ瀬くんは、私に向かってぷるぷると首を横に振った。どうやら、他の人には知られたくないようだ。今日の所は、私と一ノ瀬くんとのささやかな秘密にしておこう。
[-] グウゥー……突然鳴った誰かのお腹の音が、私にこの場を切り抜けるヒントをくれた。
[player] 何でもないよ、ただ、ずっと美味しいシーフードの話をしてたから、二人してお腹が空いちゃってさ。
[ジョセフ] 飯と言えば、この水族館には、最高のシーフードレストランも併設されてるぜ。お前達も知ってるだろ?
[player] 本当にあるんだ……レストランの食材って、この水族館産だったりしないよね?
[小鳥遊雛田] もしそうだったら、仲良くなったばかりの海のお友達が、すぐ隣で今日のディナーになっちゃうってこと~?
[一ノ瀬空] ……大人の会話って本当に危険だね。中学生にとっても、罪の無い水族館の生き物にとっても。
[八木唯] うん。先輩達、危険。
[ジョセフ] HAHAHA、安心しろ。レストランの食材は、世界各地から仕入れたものだ。今日俺がここに来てるのは、全ての食材が、俺が冒険中に心を込めて選んだものだからなんだぜ。
[ジョセフ] Let's go, My friends。海の奥深さは、見聞きするだけじゃ味わい尽くせねえ。舌でもよーく感じないとな、HAHAHA!
[player] ……なんか腑に落ちないけど、まぁいいか。
[-] レストランに向かう途中、振り返ると、水槽内の新しい友達たちが見えた。海は本当に不思議で面白い場所だ。次のジョセフとの冒険先として、海を選ぶのもいいかもな。