私は手元にあったお菓子の袋を見つめた。よし、この機会にエインに伝えるとしよう。お菓子というものが、人を堕落させ、太らせ、依存させる食べ物ではないということを! 空腹のためにお腹を鳴らしている人にとって、お菓子は崇高な食べ物となり得る!
そう、放銃牌と同じなのだ。牌も私も悪くない、ただ配牌が悪い、それだけ。
よければ、このお菓子でも食べて、空腹を紛らわしてよ。
お~……こんなにたくさんあるとは。精々太らないように気をつけるんだな、PLAYER。
せっかく食べ物をあげたのに、なんでそんな水を差すようなことを……? これは一姫にあげるつもりだったやつだよ。最近やたらと食べたがるからさ。
ああ、それなら理由を知ってるぜ。
エインさんは袋から取り出したクッキーを口に放り込み、もぐもぐしながら話した。
この前麻雀した時、「琳琅にナメられる訳にはいかないにゃ」とかなんとか言ってたぜ。
琳琅か……二人して、私の財布を薄くさせるつもりだな……!
ははっ、ならPLAYERは頑張って稼がないとな。今度いいバイトを紹介された時は、君にも声をかけるよ。
結構です……と言いたいとこだけど、最近の甘いものの異常な値上がりを思うと、はぁ~……
甘いもの? なら、安くて美味いトコを知ってるぜ。
ほんと!? 教えて! あ、いや、知りたがってるのは私じゃなくて、友達なんだけど。
俺だって、お菓子のタダ食いだけするつもりはないって。この際だ、今から案内しようか。
お菓子がエインさんを不運のどん底から救い出すのに一役買ったらしい。エインさんはクッキーふた袋とパン一つ、それに一本のソーダを飲むと、店に向かうべく軽やかに歩き出した。
赤信号だ、少し待とうぜ。
うん。
赤信号の残り時間を見ると、あと293秒だった。一飜市には通貨や測量の単位といった色んな独自のものがあって、この信号が変わるまでの時間表示もその一つだ。私はスマホを取り出し、行きの地下鉄で読み途中になっていた小説を読むことにした。隣で親切にあれこれ道路状況を説明してくれてるエインさんは、とりあえず放っておこう。
ここは車通りが激しいぜ、はぐれるのが心配ならしっぽを掴んどけよ。
水たまりもあるな、滑らないように気をつけな。
おっ、ちょっと走ってくれれば、次の青信号にぴったり間に合うぜ!
へへ、セーフだ。ラッキー。
なぜだかわからないけど、ふとムーサがエインさんを「うるさい、男」と評していたことを思い出した……。
エインさん……
ん? どうした? 頼みごとなら遠慮なく言えよ、キッチリ解決してやるから!
いや、やっぱり何でもない。
実際、近くにここまで元気な人がいるのもいいことだよね。こんな風に、自分への関心や親愛の情をひしひしと感じる言葉をかけられることなんて、幼稚園より後だと滅多にないんじゃないかと思う。
エインさんのおかげで、この道のりもそれほど長くは感じな……いや待て、この道はもしかして。
ちょっと待って、この道、すっごく見覚えがあるんだけど……一飜市の遊園地に続く道だよね?
ははっ! 正門に着くまで気付かないんじゃねーかと思ってたぜ。
私たちが向かってるお店って、遊園地の中にあるの?
厳密に言うと、遊園地のすぐそばの店な。街中からはちょっと外れるけど、長い道を歩いてもいいと思えるくらいのメリットがあるんだ。
もう少し頑張れ、左の方の道に行ったら十分くらいで着くからな。
エインさんが指差す方を見ると、遊園地に続く見慣れた十字路があり、その左右にはそれぞれ全く様子が異なる道が広がっていた。
右の道は、青々とした木々が立ち並び、陽の光に照らされてすごく綺麗だ。ある所では植物のツルが絡み、天然のグリーンカーテンを形作っていた。左の道はというと、路面がひどくボコボコしていて、まだ舗装が済んでいない田舎道のようだった。
右の道はどこに続いてるの?
あぁ、そっちでも着けるけど、三十分くらい余計に時間がかかるぜ。
十分と四十分か……
ここまでずっと、エインさんに慌しなく案内してもらっていたけど、ここは私が決めてみようかな?
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