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じゃんけんでチームを分ける。

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じゃんけんでチームを分ける。
もっとクラスメイトと一緒に過ごす時間を作ってあげようと考え、ここはランダムな方法でチームを分けるよう提案した。
少年三人はみんな戸惑ってたけど、渋々じゃんけんをした。結果、私は明くんと、一ノ瀬くんは元気な茂武くんとチームになった。
チームになったものの、明くんと私は思ったように会話出来ていなかった。
[守護者]ふぉふぉ、二人の挑戦は簡単じゃ、ラッキーじゃの。鍵は氷の中に閉じ込められておる。このち~さな氷を溶かし、鍵を手に入れればクリアじゃ。
目の前にある、私の腰くらいまである氷の塊を見て、思わず突っ込んだ。
[player]「小さい」の定義を調べ直せー!
[守護者]ふぉっふぉっ……悪魔のサイズ感からしたら小さいもんじゃ。ほら、隣にアイスピックも用意したぞ。さぁ、氷を砕くのじゃ!
[player]守護者だの、手助けだの言ってるけど、結局のところ悪魔のことばかり言ってるよね。まさか私たち、今悪魔の蘇生の儀式を手伝わされてたりして……?
[明]ん……。
[player]体力を使う謎だし、早速始めよっか。
[明]ん……。
茂武くんと分かれた明くんはまるで人が変わったかのように、二文字以上の単語を喋らない。なんなら近づくと逃げられるし、目が合うことすら無かった。
そしてようやく氷が全部砕かれ、鍵を手に入れた。明くんは逃げるように元の部屋に戻り、残された私は力なく笑った。
[player]明くんが実はここまで人付き合いが苦手な子だったとは……どうやって茂武くんと友達になったんだろ。
[茂武]ぎゃ~~~!
と思ったところで、向こうの部屋から茂武くんの叫び声がした。それから10分ほどして、一ノ瀬くんは茂武くんを連れて戻ってきた。何かあったかわからないが、二人とも何となく浮かない表情だった。
[player]ど、どうしたの?
[一ノ瀬空]ボクが……
[茂武]いや、俺が悪かった。秀才く、一ノ瀬君の足を引っ張っちまった。もっと早く手かがりを見つけていれば、こうはならなかった……。
どうして突然「秀才クン」から「一ノ瀬君」呼びになったのか分からないが、何かちょっと不愉快なことがあったに違いない。でも二人の問題だし、この年頃の子のことは手を出しづらいから、これ以上聞かなかった。
一ノ瀬くんも呼び方が変わったことに気づいたのか、一瞬動揺した素振りを見せたが、すぐ元の様子に戻った。
[一ノ瀬空]鍵を手に入れたし、さっそく次の部屋に行こう。
[茂武]そ、そうだ!早く行こーぜ!
二人は調子よく会話を続けるが、誰もさっきのことに触れなかった。この組分けは失敗だったか……この後の謎解きで、二人の関係を修復しなくちゃ。
しかし最後の部屋に入っても、二人の雰囲気は変わらないままだった。しかも一ノ瀬くんは、明くんの方ともあんまり話せていない感じがする。
コミュニケーションに欠けたチームでは、最後の謎を解くことも出来なかった。
私が探索の途中で罠に引っかかり、カチッと音がして、部屋の両側の壁が中心に迫って来た。
[守護者]ふぉっふぉっふぉ~!隠しステージに突入じゃ~!いや~、やはりお主らはラッキーじゃな~!10分以内に魔法陣を起動しないと潰されるぞ!頑張れ頑張れ~!
[茂武]何だと!?ど、どーしよ!助けてくれー!
[明]本当に潰されたりしない。でもその手を緩めないと、僕の腕は潰れる。
ゆっくりだが確実に近づいてくる壁は迫力満点で、私まで緊張して来た。しかし四人の中で唯一、一ノ瀬くんは冷静を保ち、黙々と探索を進めた。
時間が過ぎていき、部屋も段々と狭くなってきた。それに連れてみんなの精神も限界に近づき、現場はどんどん混乱に襲われた。最後は仕方なく守護者のヒントに頼り、魔法陣を完成させて、出口のドアを開いた。
外の光が部屋に差し込んできて、暗闇に慣れた目にはちょっときつかった。ヒントに頼らなければ脱出出来なかったので、事実上はクリア失敗だ。
[一ノ瀬空]すみません、最後の謎を解説してもらえませんか。
[店員]はい。実は皆様はあと少しでクリアでした。どなたかがソファーの下にある本を見つけていれば、きっと皆様の力でクリア出来たと思います。
[茂武]また俺がやらかしたか……ごめんな、一ノ瀬君。
[一ノ瀬空]元々、成功率が50%しかない脱出ゲームだし、謝ることなんてないよ。
[茂武]あ、あのさ……結構いい時間だし、これからアーミンと図書館に行くんで、俺らはこれで。
[player]二人とも、気をつけて帰ってね。
[茂武]はーい、ありがとうございます。一ノ瀬君も、またな。
[一ノ瀬空]うん、また。
二人組が帰ったあと、私は黙ったままの一ノ瀬くんに、あの時のことを聞いてみた。
[player]一ノ瀬くん、茂武くんといったいなにがあったの?最後まで二人とはあんまり喋らなかったし。友達になるつもりだったんでしょ?
[一ノ瀬空]……
[player]もしかして、私にも言いにくいこと?
[一ノ瀬空]違うよ。ただ、どこから言えばいいかわからなくて……でも揉めたとかじゃないんだ。
[一ノ瀬空]二人で協力し合わなければ解けない謎だったんだけど、ボクと茂武くんはほぼ初対面みたいなものだったし、ストレートに「あれをやって」みたいな言い方はしない方がいいかなと思って……結局ボク一人で全部の手かがりを全部見つけたんだけど、すごく広い部屋だったから、ずっと黙って探しちゃってて。
[一ノ瀬空]最初の方で、茂武くんからどこを探せばいいか聞かれたような気がしたけど、早く茂武くんを暗い部屋から連れ出してあげたかったし、手がかりを探すのに夢中になり過ぎてて、何度かスルーしちゃったと思う……だから、やらかしたのはボクの方だよ。
一ノ瀬くんは、ため息をついてルービックキューブを高速回転させた。なるほど、茂武くんの話と合わせれば、事の真相が明らかになるな。
友達のことを思うあまり、逆にすれ違うパターンだ。少年同士の友情は最も熱く、それがかえって相手を傷付けてしまうこともある。
[player]なんだ、ほんの些細な誤解だったんだ。
[player]茂武くんは暗い場所が苦手だから、一ノ瀬くんは全力で謎を解いて彼を連れ出そうとした。でも茂武は、一ノ瀬くんが彼を無視した理由は自分がうるさいせいだと思って、一ノ瀬くんの邪魔にならないよう黙って見ることにしたと。で、それがまた、一ノ瀬くんに茂武が怒ったと勘違いさせたんだな。
[一ノ瀬空]え、うん……。そう。怒ったかと思ってたから、話かけにくかったんだ……
一ノ瀬は二人組が歩いていった方を見る。その表情は苦悩から驚きへと変わった。道路の両側に植えられた街路樹は風に揺れ、まるで手を振っているようだ。
[店員]お客様、恐れ入りますが、よろしければこちらのノートに感想などを書いて頂けませんか。ご協力頂いたお客様には、次回使える無料体験チケットを差し上げております。
スタッフさんは重い空気を察してか、一ノ瀬の表情が和らいだタイミングで話しかけてきた。私がノートを受け取るより先に、一ノ瀬くんがそれを手にした。
[一ノ瀬空]誤解ってことなら、次会った時に二人とちゃんと話し合ってみる。それで、もう一度二人を誘って、脱出ゲームをやれたらいいなって思う。PLAYERさんも、また一緒に来てくれる?
[player]もちろん、最小人数は四人だしね。
どうやら今日は全くの失敗でもなかったらしい。夜まで時間はまだまだあるし、神社に行って麻雀でも打つかな。