[-] この焼きそばは、一人前でもだいぶボリュームがある。しかしこの二人が相手なのだ、追加でいくつか買うことにしよう。
[player] わかった、ちょっと待ってて。すみません、スペシャル……
[店主] じー。
[player] ……「スーパースペシャルシャインサマースマッシャーS5ランク焼きそば」を三つください! ……い、息がもたないかと思った。
[店主] スーパースマーーッシュ! 少々お待ちを、すぐ作りますんで!
[琳琅] PLAYER、五つ!
[player] え? さっきは二つって……
[一姫] ご主人、一姫も五……いや、十個にゃ!
[player] ちょっとは買う人の財布を気にしてよ……
[-] 本日の教訓、時には心を鬼にすることも肝要。スマホを眺め、減りゆく貯金残高に人知れずため息をついていると、紫色の服の裾が視界に入った。この服、もしかして……
[二階堂美樹] ふふふ……そんなに悩むことない……かもしれないわ。私がPLAYERさんの力になってあげる。
[player] 二階堂さん、来てたんだ。力になるって、どうやって?
[-] 二階堂さんは微笑んでいる。なんだか嫌な予感がするな……
[二階堂美樹] さっきグルメタウンを回ってきたのだけど、美味しそうなものをたくさん見つけたの。
[二階堂美樹] 私が奢るから、良かったらみんなで食べてみましょう、ふふふ。
[一姫] ご主人……美樹が言ってた「美味しそうなもの」って、本当に食べられるのかにゃ……?
[player] 万が一ってこともある、とりあえず疑っておくに越したことはないよね……
[-] 二階堂さんの料理の恐ろしさは、私も一姫も知っている。だから、二階堂さんの言う「美味しそうなもの」が果たして美味し……どころでなく食べられるかどうか、疑わざるを得ない。
[琳琅] ほんとに美味しい? 琳琅、食べたい!
[-] 世間の厳しさを知らない幼龍は、テンションブチ上げで口元のよだれを拭い、私の手を引いて二階堂さんに続いた。力を込めて手をふりほどこうとしたが、びくともしない。こっそり逃げようという企みは、琳琅の怪力の前に敗北した。
[player] ま、待って! 私、もうお腹いっぱいだから、琳琅と二階堂さんで行ってきたら?
[琳琅] PLAYER、それはすごい小食。たくさん食べないと、ヒョロヒョロのダメな大人になる!
[-] 私は琳琅にがっちり握られた自分の左手を見て、無言で右手を伸ばし、同じく逃げようとしていた一姫の襟元を掴んだ。
[一姫] にゃっ! 一姫は大人にならなくていいにゃ、放すにゃー!
[player] 一姫、私は、一姫の世界一のご主人なんだよね?
[一姫] にゃにゃっ! ……そうだにゃ。
[-] 一姫の耳が瞬く間に垂れた。大人しく運命を受け入れたな。
[二階堂美樹] あなた達三人って仲良しよね、本当に羨ましいわ。
[-] 二階堂さんは私たちを連れて他の屋台に行き、「美味しそうなもの」を紹介してくれたのだが、紹介されたグルメには例外なく「特別メニュー」と銘打たれていた。
[琳琅] PLAYER、琳琅、これ食べたい!
[player] 本当に? 誰も買ってる人はいないみたいだけど……
[琳琅] だめなの……?
[player] 買う買う、買ってあげるから。だからその鋭利な歯はもうしまって。
[-] 屋台ゾーンを一周し、私達は一応「食べ物」と呼べそうなものをいくつも手にぶら下げ、空いている席を見つけて座った。この後待ち受けているものが「満漢全席」か「ゲテモノ万博」かは、全てこの食べ物の山にかかっている。
[一姫] ご、ご主人、一姫達、無事で済むかにゃ?
[player] 救護室のお医者さんはかなりの名医らしいし、きっと大丈夫……のはず。
[-] まずテーブルに広げたるは「ブラックメテオ」、店舗の紹介によると、最高級黒トリュフ入りのフライドチキンだそうだ。そう聞くと魅力的だけど、隕石を模した真っ黒なフライドチキンなので、丸焦げの失敗作が入っていやしないかと不安にならずにはいられない。
[琳琅] 食べないの? じゃあ、琳琅、遠慮なく。ガブッ!
[player] ……美味しい?
[琳琅] お肉、ジューシー! 美味しい!
[一姫] にゃっ……ご主人も早く食べるにゃ、美味しいにゃ~!
[player] 本当かなぁ……ん!? 美味しい! おかわり!
[二階堂美樹] うふふ、皆に好評ね、他のも食べてみましょう。
[-] 全く期待していなかったがために、実際以上に美味しく感じられた……というのが本当の所だろう。心理的なハードルが取り払われて、私と一姫はすこし安心し、積極的に他のメニューに手を伸ばした。
[一姫] 甘い餃子なんて初めて食べたにゃ。変わってると思ったけど……マンゴークリームチーズ餃子、意外と美味しいのにゃ!
[琳琅] スイカのピザ、すごく甘い。でも琳琅、やっぱりお肉のピザの方が好き。
[二階堂美樹] これは夏にぴったりね、美味しくて見た目も素敵だわ。
[一姫] ご主人、その真っ黒けのは何にゃ?
[player] これ? ゴーヤのヤマモモ煮だよ。
[一姫] にゃあ……名前からしてまずそうだし、見た目も変にゃ。
[player] あはは……食べてみると結構イケるんだ。少し甘酸っぱい、砂糖漬けみたいな感じで、全然苦くないよ。
[-] 二階堂さんおすすめの食べ物は、どれも見た目こそやや奇妙だけど美味しい。どうやら、我々は彼女を誤解していたようだ。
[二階堂美樹] 私、もうお腹いっぱいよ。残りの三つは、あなたたちで分けてちょうだい。
[琳琅] このスープ、すごく美味しそう。PLAYER、琳琅、これがいい。
[一姫] ご主人、一姫はミートボールが食べたいにゃ!
[player] じゃあ、この具がよくわからない串カツは私がもらうね。もぐもぐ……ん?
[-] これはなんの味だろう……「酸っぱい、甘い、苦い、辛い、しょっぱい」全てをかすめているが、そのうちのどれとも言い難いし、いい匂いとも臭いとも言えない。堪らず吐き出したが、奇妙な味がいつまでも口の中に残り続けている。
[-] 極めつけには、うっかりゲップしてしまい、そのニオイが鼻に真っ直ぐ突き刺さってきた。私はむせ返り、視界がチカチカして意識が遠のきかけた。
[player] もしかして、傷んだやつを食べちゃったのかな……二人のはどう? 腐ってはいないだろうけど……
[二階堂美樹] にゃにゃっ!!! か、辛ぁっ! 辛いにゃ~~~~~~! 水水水~~~~~~!!!
[琳琅] 犯人は……シイタケスープ……
[player] 我々は、一体……何を食べてしまったんだ……
[-] 私は三つの食べ物の包装を引っ掴み、閉じかけたまぶたを開いて商品名をしかと見た。私の意識を遠のかせているのは「グッドナイト串」、一姫を飛び跳ねさせたのは「天まで届けミートボール」、琳琅を毒殺したのは「ほとばしるシイタケの気持ち! マジつらみシイタケスープ」だった。
[二階堂美樹] あら、グルメタウンのお店って、どこも本物の食材を使っているのね。効果も売り文句通りだし、これは五つ星評価をしないと筋が通らないってものよね。
[player] ん? ふふ……PLAYERさん、何をしてるの?
[-] 私は震える手で串を握りしめ、テーブルの上の暗黒物質どもにバツ印をつけた。
[player] こいつらは、人と人との信頼を破壊するブツだ……
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