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護衛のプロとして、そんな取引は出来ない。

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[player] そんな口約束、どう信じろと……わっ!
[-] さっき私がノアさんの変装用ウィッグを引っ張った時より強い力で、元宵さんが私の服を引っ張った。
[元宵] お人好しくん、そんな怪しい取り引きに乗っちゃダメ!
[player] あの、そう思って、これから断ろうとしてるんですけど!
[元宵] ほっ、それならよし!
[-] 玖辻の申し出を拒み、私は警戒しながら一歩引いた。彼は心理戦が得意だ、また切り札を残しているかもしれない。
[-] ところが、玖辻は胸を押さえ、ただとても悲しげな表情を浮かべた。
[玖辻] 旦那よォ、信頼ってモンは、一度失っちまったらなかなか回復出来ねェんだぜ?
[player] そんな情に訴えるようなこと言っても駄目だから。
[-] そんな会話をしていると、ノアさんがスマホを玖辻に差し出した。何かの情報を見せたらしい。玖辻は舌打ちすると、意味深な笑みを浮かべた。
[玖辻] ハッ、旦那から情報をもぎ取んのも、段々難しくなってきたな。ま、別のルートから手に入ったから良いけどよ。
[玖辻] じゃ、今日のとこはこの辺で。まァでも、旦那との信頼関係を取り戻すため、情報を一つタダで教えてやる。今回だけな。
[玖辻] 「竹雲」の周年祭で使うと指定された茶は何なのか。この街の誰もが、そいつを知りたがっている。せいぜい気をつけな。
[-] 玖辻とノアさんを見送ると、元宵さんも私も深いため息をついた。
[player] そんな重要な茶葉、本当に私たち二人だけで運んで大丈夫なんでしょうか?
[元宵] 僕達ならきっと大丈夫だよ! でも万が一、何かあったら……せいっ、やっ!
[player] な、なにをするつもりで?
[元宵] 対話が無理そうな奴相手だったら、僕もちょっとくらいは技を使えるし。はっ、はーっ!
[player] あはは……。愛と平和の一飜市で、そういう血生臭い事件が起こらないといいんですけどね……。
しかし、やはりと言うべきか、茶葉護送ミッションは、過酷を極めるものだった。一体どんなことがあったかというと……。
[エリサ] ぽややん! オオカミさんのトランクケースをかじっちゃダメ!
[元宵] 羊料理も、しばらく食べてないなぁ……。
[player] 元宵さん、ぽややんは食べちゃダメですよ!
[五十嵐陽菜] 猫ちゃん! それはマタタビじゃないよ、はやくペッてして!
[player] ……あのさ、 この猫ちゃんがどうやってその肉球でトランクケースを開けたのか、もう一度説明してくれる……?
[元宵] わぁ~! ここまでまるまるとした茶トラ、初めて見た! 可愛い~! よしよーし。
[player] 元宵さんも、猫ちゃんと遊んでないで手伝ってください!
[イブ] ご安心を。あなたたちが人を追っている間、このトランクケースに触れた人はいません。
[player] イブさん……ありがとうございました! でも、あれ? なんだかトランクケースから独特な匂いが……?
[イブ] あぁ、さっき買った臭豆腐大福が見当たらないと思っていたのですが、トランクケースの下敷きになっていたんですね!
[元宵] 急いでいたせいで、下に物があることをよく確認せずに置いてしまいました。申し訳ありません……。
[player] そんなことより、茶葉に臭豆腐の匂いが染みついちゃうよ……あーあ。
[元宵] ほ、ほら、スペシャルブレンドとして売り出せば、刺さるお客さんもいるんじゃない?
瞬く間に半日が過ぎた。
[-] なんとか「竹雲」の入口に到着した頃には、私も元宵さんも疲れ果てていた。ちょうどその時、聞き覚えのある声がした。
[???] やっと来ましたね。楓花様に出迎えるようにと言われて、ずっとここで待ってたんですよ。
[player] また苑さん!?{var:ShakeScene}
[元宵] また巫覡さま!?{var:Shake}
[苑] また……とは?
[player] 待て、こちらの質問に答えてもらう!
[苑] あ、えっ? い、いいですけど……なんでしょうか?
[player] 苑さんの好きな色は?
[苑] うーん……赤ですね。
[元宵] (小声)……あってるの?
[player] (小声)私も知らない。反応を見ようかなと。
[player] ではもう一つ。苑さんが好きな料理は?
[苑] 「竹雲」本店の前でよくもまぁそんなこと聞けますね。ここの料理以外に何があるんですか?
[player] それもそうか……
[苑] うーん、お二人とも、なんか変ですよ……? 何かあったんですか?
[元宵] 話せば長くなるんですけど……。今日「巫覡さま」に合うのは、これで三回目なんです。
[苑] ああ……そういうことですか。つまり、私が本当の私なのか、疑っているってことですね?
[-] 苑さんは、仕方ないなといった表情をした。
[-] これ以上の失敗は許されない。私と元宵さんは視線を交わし、トランクケースをがっちり抱え込んだ。
[苑] 楓花様がいないと、証明するのが難しいみたいですね。
[-] 苑さんは、「自分が自分であることを証明しないといけないなんて、ばかばかしい」などとぶつぶつ言いながら「竹雲」の中に入っていった。私達はほっと一息ついて、その場で待つことにした。
しばらくして、梅さんが出てきて、私達を南社長のもとへ連れて行ってくれた。
そして私は、道中の出来事を、元宵さんと一緒に社長に報告した。
[南楓花] 紆余曲折がおありだったようですけれど、一つも欠けていないようね。お二人ともご苦労さまでした。
[南楓花] 苑、元宵さんを連れて、非名さんの所へ報告に行ってちょうだい。
[-] 言いながら、南社長は私に微笑みかけ、扇を閉じて立ち上がった。
[南楓花] あなたは……あたくしと来なさい。
[-] 社長室に入ると、デスクに「迷蝶茶楼」と印字された木箱がいくつか置かれているのが見えた。
[player] あれ? これは……? 私達が運んできた茶葉とは別のもののようですが……。
[南楓花] ええ、こちらが本物のサンプルですの。あなた方が運んでいらしたのは、あたくしが個人的に注文した品に過ぎなくてよ。
[player] どうしてそんなことを……
[南楓花] 螳螂 蝉を窺いて、黄雀 後に在り。
[-] 南楓花は笑みを収めると、窓の外を見つめながら、扇で手のひらを軽く叩いた。
[南楓花] 昨日、どなたかが良からぬ噂を広めておいでなのを梅が発見し、その出所を突き止めましたの。
[player] もしかして、茶楼組合……ですか?
[南楓花] ええ。
[南楓花] ここ「無双街」の商いに一枚噛もうとする方も増えて参りましたのね。ここ数年で「竹雲」が打ち出してきた、フレンドリーなブランドイメージが何かの誤解を招いたのかしら?
[-] 南社長はやや嘲笑うような表情を浮かべ、こう続けた。
[南楓花] 組合に巣食う虫けら共は、自分達が出所だとバレて慌てたのか、今日サンプルを直接奪う計画を立てたようでしたの。
[player] 「竹雲」の周年祭が始まる前に、自分達で先に売ってやろう……とかそういうつもりだったんでしょうか。
[南楓花] おそらくそうでしょう。あなたもこの仕事がわかってきたわね。彼等は、「竹雲」の周年祭を完璧にコケにしてやろうと思っていたのでしょうけれど……自分の身の丈というものを、忘れておいでのようね。
[南楓花] あなたと茶楼のお嬢さんが餌になってくださったおかげで、梅とその部下は虫けら共を一網打尽に出来てよ。
[player] そんな策略だったとは……。確かに、これに引っかかるような連中は、南社長の敵ではありませんね。まあ、さっきまで何も知らされていなかった私にそれを言う資格はありませんけど。
[南楓花] あら、怒っておいでかしら?
[player] 怒ってません。
[-] 南社長は私に近づき、私の口の端を指で軽くつついた。
[南楓花] 口角が下がっていてよ。ふふ。
[南楓花] 梅が言っていたわ。前もって知らせておかなければ、あなたは怒ると。本当でしたのね……。
[-] 南社長は、どこからか宝石がはめ込まれた美しい酒器を取り出し、微笑みながら差し出した。
[南楓花] お詫びの品を用意しておいて良かったわ。
[南楓花] この酒器は対になっていて、長らく私の手元にありますの。一つお譲りすることで、あなたの機嫌を取ろうと思うのですけれど、いかが?
[player] 社長、私は金銀財宝で買収されるような人間じゃありませんよ。
[南楓花] 難しいものね……。でしたら、一週間分の食事もお付けするわ。
[player] あの……「竹雲」系列の料理ならどれでも無料券をプレゼント、とか考えてませんか?
[南楓花] ふぅ……。人を怒らせるのは簡単ですのに、喜ばせるのは難しいものね。
[南楓花] もちろん、そんな適当なものではなくてよ。これから毎日、会議であろうとなんであろうと予定は全てキャンセルして、たっぷりあなたの夕食に付き合います。助手であるあなたなら、これがどういうことか、おわかりですわね?
[-] 南社長は終始笑顔を浮かべていたが、最後の一言は、かなり圧を感じる口調で言っていた。
[player] も、もちろん喜んでお受けいたします。あの……ちょっと近いような……
[南楓花] そう、なら結構でしてよ。では、早速今夜から始めるとしましょうか。
しるし入手:高価な盃