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誰がドリアンを拒めるだろうか。もちろん彼の好意を受け入れる。

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私がドリアン好きということまで知ってるなんて、さすが情報屋。いや、よく考えると、彼らは私のことを徹底的に調べ尽くしているのだから、ドリアンが好きなんてことは秘密でも何でもない。
玖辻から「カルダモン」を受け取り、一口食べてみる。すると、ドリアン特有の芳醇な香りと甘さが口の中いっぱいに広がった。茶菓子の中の餡はドリアンの大ぶりの果肉で出来ていて、冷やしてあるのでアイスのような口当たりだ。こういう茶菓子は、口にすると満足感や幸福感が瞬時に押し寄せてくる。まさにこの世の宝だ。
喜びいっぱいに二つ一気に食べてしまうと、玖辻は私と距離を取っていた。彼の信じられないというような表情を見て、ピンと来た。
[player]ドリアン、食べないんですか?
[玖辻]食うかそんなもん……それを好んで食べる奴がいるなんて、信じらんねー。
[player]どうして? ドリアン、こんなに美味しいのに!
[玖辻]チッ……
[玖辻]子どもの頃、寧の姉貴に騙されて一口食べたんだが……一週間放置した葱油餅の味がしたんだよ。
[player]寧の姉貴って?
[玖辻]俺を育ててくれた人だ。
[player]その人も「ストリクス」のメンバーなんですか?
[玖辻]そうとも言えるし、違うとも言える。
[player]へぇ、それなら今、もう一度チャレンジしてみてください。きっとその時食べたドリアンがハズレだったんですよ。
[玖辻]いや、いい。
[玖辻]そうだ、俺だけじゃなくて、「ストリクス」の人間は全員ドリアンを食えないんだよ。
彼は鼻をつまみながら少し近くまで寄ってきて、声を抑えて言った。
[玖辻]旦那、これだけは絶対に覚えとけ。
[玖辻]「ストリクス」ン中でドリアンを食べるのは重罪だ。大変なことになっからよ。
[player]どんな罰があるんですか?
彼は不敵な笑みを浮かべた。とても危険な笑みだった。
[玖辻]挑戦してもいいんだぜ、試してみろよ。
[player]いや……結構です。挑戦が成功したところでいいことなんか一つも無いですし。
玖辻の話を聞いてからだと、目の前の「カルダモン」がまったく美味しそうに思えなくなってしまい、皿を遠くへ押しのけた。
[player]まぁいいです。話題を変えて、取引について話しましょう。
[玖辻]取引と言えば、もうすぐ「太夫道中」が始まるな。それを見てから話しても遅くはねェ。
彼の視線を追って階下を見ると、いつの間にか「太夫道中」が始まっていて、すっかり静まり返っていた。人々は示し合わせたように騒ぐのを止め、期待を込めて「幾度春」の入口を見つめていた。
スマホの時計が0分ちょうどを示した時、下で割れんばかりの歓声が上がり、「幾度春」の正門がゆっくりと開いた。
まずは同じ服を着た男性が数名、木の札を掲げて現れ、道路の両脇に立った。木の札には「幾度春」の紋章が大きく描かれている。小さく文字のようなものも書かれているようだが、ここからでは小さくてよく見えない。
その後すぐに、美しい衣装に身を包み、手には花かごを持った六人の少女が続々と門から姿を現した。二手に分かれて両側に並び、歩きながら花かごに入った花を道へ撒いている。
リズミカルな太鼓やお囃子と共に、白い足袋に底の高い草履、確か「おこぼ」と言われる履物を履いた脚が伸び、半月型の弧を描いてまた門の内側へと戻った。まるで美しい金魚が水面から飛び出し、尾を振ってみせたかのようだ。
これを何度か繰り返した後、着飾った女性が花の敷かれた道に沿って、金魚のような足取りを保ったままゆったりと門から出てきた。
距離が離れている上に玉簾で出来たベールをつけているから、顔はよく見えない。玖辻は無造作に窓枠をノックしてこう言った。
[玖辻]あちらさんが、東城玄音サマだ。
玖辻の指は、お囃子に合わせてリズミカルに窓枠を叩き、このショーを楽しんでいるようだ。東城さんが私達の真下まで来た時、彼が急にこちらを見た。
[玖辻]旦那、取引の前にアンタに言っておくことがある。
[player]なんですか?
[玖辻]アンタに参加させたオークションと、その後の一連の出来事にどんな意味があったか、知りてぇだろ?
[player]まあそうですね。自分が何か特別な価値のある情報を手に入れたとは思えませんでしたし。
[玖辻]違うな、「アンタが参加した」こと自体が価値ある情報なんだよ。
[player]どうしてですか?
[玖辻]あの日、アンタがどの花を選ぼうと東城玄音に会えてたとしたら?
[player]三種類とも彼女を示す花だったんですか?
[玖辻]いや、彼女がアンタに会いたかったからだ。
[player]え?
[玖辻]最初は手元にある情報からそういう仮説が持ち上がっただけだった。けど、アンタの行動が、その仮説を証明してくれた。
玖辻の話のせいで、抱いていた謎が更に大きくなった。私と東城さんとの関係を考えても、彼女が積極的に私に近づこうとした理由に思い当たる節はない。
[玖辻]旦那、俺たちが交わした取引はまだ有効だが、条件を変えてやってもいいぜ。今からアンタに選択肢を二つやる。
[玖辻]一つ目、元々の約束通り、ヒーリのことを聞く。彼女が最近何をしてるのか教えてやる。
[玖辻]二つ目、自分のために東城玄音に関することを俺に聞く。アンタにとって使えるモンをを選んで教えてやる。
[玖辻]少し時間をやろう。自分が本当に欲しいモンを選ぶんだな。
玖辻の言葉を聞いて、私はじっと考え込んだ。感情的にも道理からしても、ヒーリについて聞くべきなのだろう。それが当初の目的であり、頼まれたことなのだから。
だが一方で、私は確かに東城さんがこんなことをした理由が気になっていた。今思い返すと、あの日彼女と交わした言葉には深い意味があった気がする。ありふれたことだと思っていても、実は思っていたより複雑だった……なんてこともあるし。
さんざん考えたが、選ぶのは難しい。サラとライアンくんの心配そうな眼差しが脳裏にかわるがわる現れたが、その奥で、東城さんのあの柔らかく心地よい声が響いていた。
[玖辻]はぁ……旦那はもっと自分中心に考えていいんだぜ。誰もアンタを責めやしないさ。
それなら……